【 目次 】
不動産投資において、消費税還付は利回りを上げる手段として利用されてきました。
しかし近年政府による規制が厳しくなっています。
今回は、消費税還付の仕組み・ポイントや法改正について解説します。
消費税還付って?
そもそも、どのような仕組みで消費税の還付は行われているのでしょうか。
まずはその基本的な仕組みを理解しておきましょう。
(1) 消費税還付の基本
税金には、直接税・間接税の二種類があります。前者は、納税者と負担者が同じもの、後者は納税者と負担者が異なるもので、消費税は後者に分類されます。消費者は何かを買った際に消費税を負担し、事業者は消費者から預かった消費税と仕入れ先に払っている消費税の差額分を納税することとなります。
例を見てみましょう。消費者が事業者から108円の品物(原価100円、消費税8パーセント)を購入した場合、預かった消費税は8円です。そして事業者が仕入れ先から54円で品物を仕入れた場合、支払った税額は4円になります。つまり事業者は、「預かった消費税額−支払った消費税額」に相当する4円を納税することになります。
では、消費税の還付はどのような場合に受けられるのでしょうか。「還付」とは払いすぎた税を補償する仕組みです。したがって、仕入れ先に支払った消費税額が消費者から預かった消費税額を超えている場合に還付を受けることができます。つまり「預かった消費税額−支払った消費税額」がマイナスになる場合に、確定申告書を提出することで差額分が還付金として手元に戻ってくるのです。
これが消費税還付の基本的なメカニズムです。
(2) 不動産における消費税還付って?
では、不動産投資における消費税還付はどのような仕組みなのでしょうか。不動産投資の場合、物件などの固定資産に支払う金額が大きくなるため、そこに課される消費税が還付されれば、大きく利回りを上げることができます。この消費税還付のやり方は、二度の税制改正を経て変遷しているので、平成22年度、28年度それぞれ順に解説していきます。
平成22年度の法改正までは、極めて単純な仕組みでした。所有している物件の家賃に課される消費税額から物件を取得する際に支払う消費税額を引いた、差額分が還付されるようになっていました。
しかし、ここで注意しなければならないことが二つあります。
1 課税売上割合によって消費税還付額が決定される
現行の税制における消費税還付額は、課税売上割合によって決定され、高ければ高いほど、還付額は大きいものとなります。課税売上割合とは、総売上(課税売上と非課税売上)に占める課税売上の割合で、
課税売上割合=課税売上/(課税売上+非課税売上)×100%
の式で計算されます。 課税売上割合に関しては、以下のような規定があり、物件を取得してから3年後の末日に、この課税売上割合が著しく変動していた場合、仕入れ控除額の調整を行うとされています。
課税売上割合に関する規定~抜粋~
課税事業者が調整対象固定資産の課税仕入れ等に係る消費税額について比例配分法により計算した場合で、その計算に用いた課税売上割合が、その取得した日の属する課税期間(以下「仕入課税期間」といいます。)以後3年間の通算課税売上割合と比較して著しく増加したとき又は著しく減少したときは、第3年度の課税期間において仕入控除税額の調整を行います。
なお、この調整は、調整対象固定資産を第3年度の課税期間の末日に保有している場合に限って行うこととされていますので、同日までにその調整対象固定資産を除却、廃棄、滅失又は譲渡等したことにより保有していない場合には行う必要はありません。
2 賃貸収入は非課税
現行の税制度では、建物の建築や購入などの物件取得には消費税がかかります。しかし、居住用に賃貸する場合、そこからの賃貸収入には税金が課せられないことになっています。
上記の注意点を考慮して、「自動販売機スキーム」と呼ばれる、従来の消費税還付の方法を見てみましょう。
(1)「課税事業者選択届出」を提出する。
課税事業者届出を提出することで免税事業者から課税事業者になり、免税事業者時には不要な確定申告の必要が生じます。課税事業者でなければ、消費税の還付を受けることはできないため、絶対必須なステップと言えます。
(2)物件を取得する。
(3)自動販売機を設置する。
課税事業者でなければ消費税還付を受けることはできません。また、仮に課税事業者届出を提出しても課税売上がなければ、やはり消費税還付を受けることができません。賃貸収入は非課税売上に分類されるため、自動販売機の収入を通じて、別途に課税売上を発生させる必要がありました。
以上の条件をクリアすれば、確定申告時に消費税の還付を受けることができました。この後、物件取得から3年後に調整期間がありますが、その際に課税売上割合が著しく変動していた場合は、仕入れ額控除の調整を受けることとなります。事業者はこれを避けるため、調整期間までに再度、免税事業者に戻っていました。
これが不動産投資における従来の消費税還付の方法でした。
平成22年の税制改正
しかし、上記のような状況を問題視した政府は平成22年に税制の改正を行います。その内容は、事業主は、以下(1)~(3)の条件に該当した場合、課税事業者届出を提出してから3年間は免税事業者に戻ることを法律で禁ずるというものでした。
(1)課税事業者選択届出を提出し、課税事業者になること
(2)課税事業者になっている2年間に建物などの取得を行う
(3)その支払いの確定申告を一般課税で行う
平成22年度税制改正~抜粋~
課税事業者選択届出を提出し、平成22年4月1日以後開始する期間から課税事業者になった場合、課税事業者となった課税初日から2年を経過する日までの間に開始した各課税期間中に、調整対象固定資産の課税仕入れを行い、かつその仕入れた日に属する課税期間の消費税の確定申告を一般課税で行う場合、調整対象固定資産の課税仕入れを行った日の属する課税期間の初日から原則として3年間は免税事業者になることができない。また、簡易課税制度を適用して申告することもできない。
この(1)~(3)の条件は、従来は自動販売機スキームにおいてクリアされていたものでした。平成22年度の税改正後には、例え課税事業選択届出を提出し、物件を取得した際に消費税還付を受けても、3年後の調整期間までに免税事業者・簡易課税事業者に戻れないため、ほとんどの還付金を取り戻されてしまうことになります。このため、平成22年度の税制改正後、消費税還付によって利回りを上げる方法は使えなくなったかのように思われました。
しかし、平成22年度の税改正には二つの穴がありました。一つは、何らかの理由によりもともと課税事業者であった場合は、この規制が当てはまらないこと。もう一つは、課税事業者選択届出を提出し、課税事業者になって2年間が経過した3年後に物件を取得した場合です。
このため、不動産投資における消費税還付を封じ込めるまでには至りませんでした。
平成28年の税制改正
前回の法改正には抜け道があったため、平成28年さらに「高額資産を取得した場合における消費税の中小事業者に対する特例措置の適用関係の見直し」という形で、以下のように税制改正が行われ、課税時事業者は高額資産の仕入れ等を行った場合、その後3年間は免税制度の適用を受けることが禁止されました。
平成28年度税制改正~抜粋~
事業者(免税事業者を除く。)が、簡易課税制度の適用を受けない課税期間中に国内における高額資産の課税仕入れ又は高額資産の保税地域からの引取り(以下「高額資産の仕入れ等」という。)を行った場合には、当該高額資産の仕入れ等の日の属する課税期間から当該課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間においては、事業者免税点制度及び簡易課税制度は、適用しない。
(注)上記の「高額資産」とは、一取引単位につき、支払対価の額が税抜1,000 万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産とする。
*この高額資産の仕入れには、税抜き1,000万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産の購入のことで、物件の取得などが該当します。
前回は、課税事業者選択届出が提出されてから3年間の控除を禁じるものでした。このためもともと課税事業者であった事業主や、2年間経過した後の物件取得による消費税還付は規制されませんでした。今回の改正では、そもそもの対象を物件の取得を行った事業主とし、さらに規制が強められました。
消費税還付を受ける方法と条件
平成28年度の税制改正により、不動産投資において消費税還付を利用して利回りを上げる手段は不可能になったとの声もあります。実際はどうなのでしょうか?
現在でも有効な消費税還付スキームを考えてみます。
(1) 課税売上割合を高いままで維持する
消費税還付スキームを行うと、課税売上割合が著しく変動することになります。従来は課税事業者選択届出を提出し、いかに変動を避けるかが焦点となってきました。しかし現在では、課税事業者選択届出提出時ではなく、物件取得時に規制がかかるようになりました。このため、基本的に仕入れ控除額の調整を避けるのは不可能となりました。しかし、この3年後の調整課税の際に課税売上割合を維持していれば問題はありません。
課税売上割合に関する規定~抜粋~
課税事業者が調整対象固定資産の課税仕入れ等に係る消費税額について比例配分法により計算した場合で、その計算に用いた課税売上割合が、その取得した日の属する課税期間(以下「仕入課税期間」といいます。)以後3年間の通算課税売上割合と比較して著しく増加したとき又は著しく減少したときは、第3年度の課税期間において仕入控除税額の調整を行います。
なお、この調整は、調整対象固定資産を第3年度の課税期間の末日に保有している場合に限って行うこととされていますので、同日までにその調整対象固定資産を除却、廃棄、滅失又は譲渡等したことにより保有していない場合には行う必要はありません。
(2)税抜き価格1,000万円に収まる物件を取得する
言うまでもなく高額資産の仕入れに該当しないため、免税制度を受けることができます。しかし、価格が小さいので大して利回りを上げることはできないでしょう。
(3) 調整課税を受ける前に、取得した物件を売ってしまう
3年後に訪れる調整課税期間前に、還付対象の物件を売り払ってしまう方法もありえます。この方法ならたしかに調整課税をかわすことができます。しかし短期間で物件の価値が下がらないことを加味すると、結局消費税として払わなければならないため、適切な手段とは言えません。
以上が、消費税還付を行う手段として考えられるものです。
まとめ
平成28年度の税制改正を経て、消費税還付によって利回りを良くすることはかなり難しくなりました。また、二度の税制改正に見られる通り、政府は不動産投資における消費税還付を問題視しているため、税務署に目を付けられ不要な手間が増える危険も忘れてはなりません。
その意味でも、不動産投資の小税還付をめぐる状況はかなり厳しい状況にあると言えます。加えて書類作成などの手続きも非常に複雑です。しかし、条件をクリアすれば、消費税還付を行うことはまだまだ可能です。消費税還付を目指す場合には手順と条件を丁寧に理解して行うようにしましょう。
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