【 目次 】
不動産投資の一環として不動産賃貸を行うということは、自分自身が賃貸人になるということでもあります。
不動産をほかの人に貸すときには、実に様々な法律が絡んできます。
なかでも借地借家法は最も重要な法律であり、不動産賃貸を賃貸管理会社等に委託せず、ご自身で行う方はこの法律について熟知しておく必要があります。
ここでは、そんな借地借家法について詳しく解説していきます。
借地借家法とは?
借地借家法とは、その名のとおり土地や家の賃貸借についての様々な規定を記した法律で、民法の中の特例を定めた法律として扱われています。
もともと、物の貸し借りについては民法の中に様々な規定があります。
しかし、土地や家などの貸し借りはお金の移動も多く、また借りている側は住居という生活に必要不可欠な物を借りているため、立場的に貸している側が強くなってしまうという特性がありますので、一般的な物の貸し借りとは性質が大きく異なります。
そこで、貸している側と借りている側の立場の格差を是正するために借地借家法が制定され、土地や家の賃貸借にのみ特別な規定を適用させているのです。
借地借家法で定められた、一般的な物の賃貸借についての民法規定には見られないような特例として、いくつか重要なものを挙げてみたいと思います。
1.賃貸借の期間について
一般的な物の貸し借りでは、短い契約期間を定めることが可能です。
しかし賃貸住宅の契約期間は1年以上であり、それ未満の場合は期間の定めのない契約となります。これは契約期間を短くして、不当な契約更新や賃料の吊り上げ、入居者の半強制的な退去を促すことを防止するためにあります。
例外として、1年以内に建物が取り壊されることが決まっている場合や、1年以内に改築が予定されておりそれに伴い退去しなければならない場合など、やむを得ない場合については1年未満の契約期間も認められます。
一般的には、個人の住居の契約期間は2年から3年であることが普通です。
2.契約期間満了時について
また一般的な物の貸し借りの際には、契約期間満了に伴い賃貸人は賃借人にその物を返還するように請求することができ、かつ賃借人は契約の更新を請求するかその物を返還しなければなりません。しかし家や土地の場合は、契約の際に定めていない限り自動更新が原則です。契約期間が満了し特段の話し合い等もないならば、そのまま契約が継続されます。
もちろん、契約期間満了に伴い入居者(賃借人)が契約を解除したいと申し出た場合や、賃貸人と賃借人の話し合いの結果として入居者側が任意で退去するという場合は、契約更新はされません。
しかし、正当な理由あるいは適切な立退料がないまま、契約期間満了だけを理由として契約を解除し、入居者を退去させることはできません。
正当な理由があって賃貸人が契約更新を拒絶したにも関わらず入居者が退去しない場合は、賃貸人は裁判所に判決を求めることができます。
このように借家の賃貸契約では、その特性上、借りている側がどうしても立場上弱くなってしまうため、このような法律が存在するのです。
戦時立法による法改正
現在の借地借家法のもととなる法律の制定
借家法という名前の法律が制定されたのは今から約100年前の大正10年であり、これも現行の法律と同様に立場が弱い賃借人を守るための法律でした。
明治維新以降、日本の近代化が進むと人口がどんどんと都市部に流入しました。
これを受けて都市部の地主は積極的に土地を貸すようになり、賃借人が増えていきます。
しかしこの当時は、賃借人を保護するための法律はまだ存在しておらず、そのため地主が賃借人に対して強い立場に立ちました。
また、地主同士の土地の売買や、地主の世代交代などで土地の所有権が移転した場合、もし新たな所有者が賃借人の立ち退きを求めれば賃借人はそれに応じなければなりませんでした。
そのため土地の取引に伴って頻繁に建物が取り壊され、まるで地震のように建物がどんどん壊れていく様子から「地震売買」とも呼ばれ、社会問題となりました。
そこで、明治42年に「建物保護ニ関スル法律」、さらに大正10年には現在の借地借家法のもととなる借地法および借家法が制定されました。こうして、土地賃借人の保護にむけた動きが徐々に生まれ始めたのです。
昭和16年改正
その後、日中戦争開戦にともなう戦時特需によって都心部への人口の流入が加速し、土地・住居への需要も高まりました。すると都心部の土地代が上昇し、これに応じて地主も家賃を引き上げようとします。
しかし政府は、家賃の高騰によって国民の生活が脅かされることを避けるため、賃借人保護のための家賃統制を行います。
一方、思いどおりの家賃を収受できないことを嫌った地主の側は、逆に賃借人に立ち退きを迫りますが、これに対しても政府は、正当な事由なくしては契約更新の拒絶ができないよう借地法・借家法を改正します(昭和16年、正当事由制度)。
当時の日本は第二次世界大戦を背景として、国内での物価や物流、人の移動の統制のための国家総動員法が制定された時代でもあり、いわば賃貸契約の内容さえもが国家の強い干渉を受けていたといえます。
いずれにしても政府は、これらの施策によって不当な賃料引き上げや強制立ち退きを防ぎ、戦場へ赴いた兵士が帰還後に住む場所に困らないようにしました。
定期借地制度、定期借家制度の創設
第二次世界大戦が終結し、日本の復興も進むなか、「正当な理由がない限り契約を更新し続けなければならない」という借地法・借家法の正当事由制度は残されたままでした。
あまりにも貸す側が不利な状況が続くなか、一度他人に土地や家を貸してしまえば二度と戻ってこなくなる、という認識が地主の間で広がったため、地主も徐々に土地を貸し渋るようになり、有効活用されない土地が増えていきました。
しかしその後、戦後の復興、そしてそれに続いてやってきた好景気やバブルによって、土地の売買が非常に活発になり、そもそも土地を持っているならば賃貸を行うよりも売買を行ったほうがはるかに大きな利益を生み出せる時代となったため、正当事由制度についてもあまり議論が交わされない時期が続きました。
バブル崩壊による不況
しかし、1991年にバブルが崩壊し一気に日本経済が不況に陥ると、不動産の売買も一気に低迷し、土地保有者が賃貸で利益を上げなければならない状況になります。このとき、再び正当事由制度が問題になり始めました。
そうして1992年に借地法・借家法およびその他の法律が一つの新しい「借地借家法」に統一され、定期借地制度および定期借家制度が創設されました。
定期借地制度および定期借家制度では、契約の際に具体的な契約期間を定めれば、正当な理由等を必要とせずに契約期間満了時に契約が更新されず終了します。
このような制度を作ることによって、正当事由制度による「一度貸したら戻ってこないのではないか」という不安を払拭し、空き地の有効活用につなげようという狙いがありました。
現在はこの新法の整備によって、強くなりすぎた賃借人の力を弱めて賃貸人との力のバランス関係が適切に保たれるようになったのです。
現在の借地借家制度が不動産投資に与える影響は?
借地や借家に関して、長きにわたって紆余曲折があったことは見て取れるかと思いますが、新しい借地借家法が制定されたことによって以前よりは物件を貸しやすい状況になっています。
しかし、物件を元手として賃貸を行う場合は、定期借家制度を使うということはあまりありません。
なぜなら不動産投資において一番避けたいのは空室であるので、一度契約を結ぶことができた入居者に対し、契約期間を限定することでわざわざ自分から手放しにする必要はないからです。
投資の観点からはむしろ、入居し続けてもらえることはとてもありがたいことです。
そもそも、個人が行う不動産投資の場合、投資の対象となるのはアパートやマンションの数室程度というのがほとんどで、高層マンション一棟や一戸建ての賃貸を行うケースは多くありません。
そのようなアパートやマンションを借りる層は、多くの場合学生、一人暮らし、または若い世代の家族といった入居者であり、何十年にもわたってその部屋に住み続けるということは考えにくいでしょう。
とはいえ、期限を設けずに契約してしまえば正当な理由なしには契約解除ができなくなりますので、賃貸契約の際には貸す側としてこの点に注意する必要があります。
したがって一般的にいえば、これから長期にわたって不動産投資・不動産賃貸を続けていきたいという方にとって、定期借家制度を利用する場面はあまりありません。
しかし一方で、例えば不動産投資をある期限までしかやらないと決めていて、それまでに物件を売却したいと考えている場合には事情が異なります。
入居者を全員退去させた状態にしておくことで売りやすくしたいと考えているのであれば、定期借家制度を上手に利用し、契約期限を迎えた際に確実に退去してもらうことが可能になります。
このような賃貸借契約は「定期建物賃貸借契約」と呼ばれ、借地借家法の定めに従って締結されます。ただし、1992年の借地借家法制定以前からの契約の場合、その契約は旧来の法律に則ったものであるため、定期借家制度が利用できません。留意しておきましょう。
このように、定期借家制度が導入されたことによって不動産賃貸の幅は広がり、より安心できる投資方法になったため、不動産投資にとっても現行の借地借家制度は有益なものであるといえます。
借地権付物件とは?
借地権付物件とは、土地の所有権が付属せず、土地を借りている状態の物件を指します。たとえばAさんが借地権付物件を売りに出しているとします。
その場合、売りに出ている物件自体はAさんが所有しているものの、その物件が建っている土地は、Aさんとは別の第三者がAさんに貸しているということになります。
借地権付物件のメリット
借地権付物件のメリットとして挙げられるのは、まず初期費用が安く抑えられるということです。
通常の物件購入では、物件そのものはもちろん、その物件が建っている土地も一緒に購入することになります。一方で借地権付物件は、土地は購入せずその上に建っている物件そのものだけを買うことになるので、土地の分の費用はかかりません。
また、物件が建っている土地は所有していないので、土地にかかる税金は支払わなくて済みます。
しかし、土地を借りている状態であることからもわかるように、土地所有者に対して地代の賃料を支払わなければなりません。土地所有者の側にとってみれば、土地を貸すことで利益をあげなければなりませんので、税金よりも高い地代を設定するのが普通です。借り手としてはこの点に注意し、どのような物件が自分にとって適切な選択肢なのかを検討する必要があります。
借地権付物件のデメリット
・借地権付物件に対する融資を行っていない
多くの金融機関では借地権付物件に対する融資を行っていません。
購入にあたって融資を受けることが難しいという点も、一つのデメリットです。確かに借地権付物件は相対的に安いとはいえますが、しかし簡単に手に入れられるような金額ではないこともまた事実です。ある程度資産に余裕がなければ、融資を受けることも、借地権付物件に投資することも厳しいでしょう。
・売却等の際に地主の承諾が必要
さらに、借地権の種類や物件の登記内容によっては、借地権付物件に対して何か手を加えたり売却したりする場合に、必ず地主の承諾が必要となります。
自分の思い通りの物件管理がしにくければ、不動産賃貸投資の楽しみが一つ減ってしまうことになります。
借地権付物件に投資しようと考えている場合は、この観点からも一度よく考えてみましょう。
総合すると、借地権付物件では最初の取得費用は安く済むものの、その後にかかる諸費用は通常の所有物件よりも高くついてしまうといえます。また、融資を受けにくいため一定の資産がなければ手を出しにくく、しかも購入後は逐一土地所有者の承認が必要であるという煩雑さもあります。
しかし、取得費用は通常よりもかなり抑えられるため、物件の賃貸で確実に大きな収入が得られると見込める場合には、少ない費用で高い利益を上げられるでしょう。
まとめ
借地借家法は、賃借を伴う不動産投資において最も重要な法律の一つであるといっても過言ではありません。
物件の賃貸契約にあたって様々な制約が設けられているので、それらの内容をしっかりと把握しておかなければ、契約更新の際のトラブルにつながってしまいます。
不動産投資を始める場合は、借地借家法についてひととおり勉強しておくのがよいでしょう。
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