【 目次 】
「生産緑地問題」をご存じでしょうか? 多くの方には聞き慣れない問題かもしれませんが、この問題の影響によって、都市部の不動産価格の下落や空室物件の増加が懸念されています。
そこで不動産投資を検討している方にとっては、不動産価格や空室にこの先どう影響するかは気になることでしょう。
この記事では、そもそも生産緑地とは何なのか、今後の不動産価格や空室にはどういった影響が起こりえるのかを解説します。
生産緑地とは
生産緑地とは1992年に改正された「生産緑地法」に基づいていて定められた地域地区であり、市街化区域にありながら、一定の条件で税負担の軽減などが受けられる農地や山林のことです。ざっくり言えば「都市にある農地」のことです。
生産緑地、正確には生産緑地地区とは「生産緑地法」に基づき、市街化区域内において以下の要件を満たす地区です。
【1】災害防止など都市生活の環境の保全に相当の効果があり、公共施設などの用地として適している
【2】一団の農地で面積が500㎡(約151坪)以上である
【3】農業の継続が可能な条件を備えている
上記の3つの条件を満たした農地の所有者に、同意を得て、管轄自治体が都市計画法に基づき指定した区域のことです。
生産緑地法の内容や制定の背景とは
1970年代に東京・大阪などの大都市圏が好景気に沸いており、地方から都市に人口が流入したことで、深刻な住宅不足を引き起こしました。
そこで、住宅不足解消のために政府が農地に課税をし、農地を手放すように促しましたが、緑地が自然環境や防災の面で役に立つことが再評価され、1974年に市街化区域内において緑地や防災上の空地などの役割を担っている農地を保全し、良好な都市環境の形成を目的として「生産緑地法」が制定されました。
しかし、生産緑地の指定を受ける難易度が高いこともあり、長期に渡り、農業を営む事業者の税負担の軽減される「長期営農継続制度」が導入されました。
ところが、1991年にこの制度が廃止され、再び農地を手放す事業者が増えたため、1992年に「生産緑地法の改正」が実施されました。これにより、農業を30年間、営む義務が課される一方で、固定資産税の軽減や相続税の納税猶予など税制優遇が受けられるようになりました。
「生産緑地の2022年問題」とは一体なんのこと?
1992年の「生産緑地法の改正」により、「生産緑地」においては、30年間の営農期間が義務となり、生産緑地の所有者が亡くなるなどの理由で農業を辞めるか、あるいは指定を受けた日から30年経過するまでは、買取りの申請や売りに出すことはできなくなりました。ですが、この30年間は、税制優遇を受けられるという恩恵を受けられることになりました。
そして、来年の2022年がちょうど、1992年から30年後にあたります。
つまり、2022年以降は固定資産税や相続税等の税制優遇が受けられなくなります。
また、営農義務もなくなるため、高い税金を課されてまで農業を営む必要性がなくなり、生産緑地指定が解除された農地を手放す人が大量に現れてしまう可能性があります。
さらに農家の高齢化によって後継者問題もあり、税制優遇がなくなったら農地を手放すというのは自然な流れであり、農地が大量に売り出されることが予想されます。
そして、2022年以降、新築住宅の過剰供給となり、空室や不動産価格の大暴落を招く恐れがあります。これが「2022年問題」と言われています。
実際に期限到来により、農地が大量に売りに出される可能性をハウスメーカーやマンションデベロッパーが期待しており、これら広大な土地が不動産会社に売却されると、結果的に需要と供給のバランスが崩れ、不動産価格や賃貸物件の賃料の下落につながる恐れがあります。
生産緑地に指定された区域の殆どは首都圏・近畿圏・中京圏に集中しており、全国で約1万4,247haある生産緑地のうち約8割が2022年問題に該当すると見られています。
参考:国土交通省 都市計画区域、市街化区域、地域地区の決定状況(22)生産緑地地区
東京都内で生産緑地法指定解除の対象となる面積とエリア
国土交通省によれば、東京都には3,030ha、東京ドーム約724個分の生産緑地があります。もちろん、これらのうちすべてが生産緑地指定を解除されるわけではなく、道路用地も土地開発の際に一定程度必要とされることを考慮すれば、有効面積はかなり少なくなります。
東京都の行政区別に見ていくと行政区によって生産緑地の面積は大きく異なり、市部と区部の比率は9対1、つまり東京都の生産緑地の9割程度が市部に偏っています。
最も多いのが八王子、町田、立川となっています。
参考:国土交通省 都市計画区域、市街化区域、地域地区の決定状況(22)生産緑地地区
一方で、都心部の山手線の内側には生産緑地は存在しません。
また、例えば生産緑地の多い立川市であってもJR立川駅から歩いて行ける範囲ではほとんど生産緑地は見当たりません。それよりも立川市の北部に横断している西武拝島線の周辺に生産緑地は固まっています。したがって、同じ行政区の中でも駅から離れている方が生産緑地は多いことが分かります。
「生産緑地2022年問題」で不動産価格は値下がりするのか?
国土交通省が練馬区、世田谷区を対象に2018年に実施した調査によれば、特定生産緑地の指定を受けない、または一部しか指定を受けない方に「買取の申請をするか」を聞いたところ、25%以上の方が「すぐにでも買取の申請」をしたいと回答しています。
したがって、東京都にある約3,000haある生産緑地のうち、9割にあたる2,700haが市部にあり、さらにそのうちの10%、270haを所有する方々が指定を受けないと回答しています。
そして、指定を受けない方の25%が「すぐに買取の申請をする」と回答しているので、約67.5haの土地が売りに出されると想像ができます。
ちなみに都下で新築マンションはここ数年で3,000~4,000戸のマーケットとなっています。3,000~4,000戸で1戸当たり70平米のマンション、容積率が200%の土地だと仮定すると年間のマンション用地は約12.25haとなります。
上述の通り、2,700ha×10%×25%がすぐにマーケットに出されると仮定すると5年分以上の新築マンション用地がマーケットに出てくるということになり、さらに賃貸アパートや賃貸マンションなど集合住宅が建造されれば、賃貸物件の供給が過剰になり、関係するエリアについては住宅市場に十分影響する可能性があります。
参照データ:国土交通省 特定生産緑地指定の手引き
生産緑地問題で価格暴落しない不動産とは?
上述の通り、都内の生産緑地のほとんどは市部に存在しますが、東京23区内での生産緑地面積が多い上位2区は練馬区と世田谷区です。しかし、1位の練馬区の生産緑地は埼玉県寄りに集中し、2位の世田谷区は路線が多く張り巡らされているので、路線の周辺にも生産緑地がありますが、路地の一角などかなり小さい規模になります。このように生産緑地は駅から少し離れているため、駅近の土地の暴落は考えにくいです。
東京23区全体で見ても需要と供給の関係からも現在の需給バランスが崩れるほどの生産緑地はなく、さらに駅から徒歩10分圏内にあるような生産緑地はほとんどありません。
また、金融庁が投資物件への過大な融資を問題としているため、金融機関も賃貸需要が見込めない場所への融資は積極的に行わないでしょう。デベロッパーも優良物件以外には積極的に投資をしようとはしないので、駅近にマンションが乱立するという光景は想像し難いです。
結論として、そもそも都心や駅の近くの地域には生産緑地がほぼ存在しませんので、「2022年問題」をそこまで懸念する必要はなさそうです。
生産緑地問題で価格暴落する可能性がある不動産とは?
生産緑地問題で価格に影響を受ける不動産とはどのようなものでしょうか?
「2022年問題」の影響をもっとも受けやすいのは、郊外かつ駅から少し距離があるファミリー向けの住宅でしょう。
ファミリー向け住宅は駅から少し距離があっても需要があります。
そのため、生産緑地がデベロッパーやハウスメーカーに売り渡され、ファミリー向けの賃貸アパートが乱立するような事態になれば、賃貸物件の空室率が上昇し、賃料が一気に下落する可能性もあります。
これはファミリー向けの一軒家にも言えることで、地主から生産緑地を買い上げたデベロッパーやハウスメーカーが分譲戸建てとして販売すれば、不動産市場は供給過多となり、既にその地域に住んでいる人にとっては自宅の資産価値の下落の恐れがあります。
同様に人口が減少している地域についても不動産価格は下落する可能性があります。地域の人口が減ると、それに伴って周辺の施設も閉店や撤退に追い込まれるため、不動産価格が落ちやすくなります。もっとも、そのような地域の生産緑地をデベロッパーやハウスメーカーが積極的に買い取って、マンションを次々に建てることは考えにくいので、影響はそこまで大きくないかもしれません。
さらに、影響をもっとも受けやすい不動産種別はファミリー向けの賃貸マンションであると言われています。反対に言うと、都心部の駅に近い物件や生産緑地が少ない23区内などの物件の希少価値は損なわれないということです。
また、そもそも住宅用地の供給にはその規模にもよりますが、建築確認から各種手続きから建設計画立案・着工・販売まで長期間かかるので、2022年になったと同時に、いきなり大きな影響が出ることは考えづらいでしょう。
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生産緑地や生産緑地2022年問題によって、生産緑地が少なく、人口の過疎化が進んでいない都心の駅近で生産緑地が大量に売り出され、不動産価格が大暴落するという事態にはならないでしょう。
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