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2017年3月、不動産特定事業法の一部を改正する法律案が閣議決定されました。その後、同法は2017年6月2日に公布され、同12月1日に施行されました。また、2019年4月より、不動産クラウドファンディングを促進するための改正・施策も実施されています。
そこで今回は、同法の内容や改正案、そして同法が不動産業界に与えた影響や今後の予想について解説していきます。
不動産投資の節税について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
不動産特定共同事業法とは?
そもそも不動産特定共同事業法とは、不動産事業の一つの形式である不動産特定共同事業を行う上でのルールを定めたものでした。
不動産特定共同事業とは、一般には、投資家たちが直接不動産を購入するのではなく、事業者が複数の投資家から資金を預かって不動産取引をし、そこから得た利益を投資家に分配する事業形態です。
細かい分類を言えば、不動産特定共同事業には四種類の業態があります。
・第一号事業
業態:出資者との契約に基づいて不動産投資から得た利益を分配する事業資本金要件:資本金が一億円以上である、負債額が資産額の10%に満たない
・第二号事業
業態:不動産特定共同事業の契約を仲介したり代理したりする事業
資本金要件:資本金が一千万円以上である、負債額が資産額の10%に満たない など
・第三号事業
業態:特例事業者による委託を受けた不動産特定共同事業
資本金要件:資本金が五千万円以上である、負債額が資産額の10%に満たない
参加投資家:特例投資家のみが参加することができる
・第四号事業
業態:特例事業者との不動産特定共同事業契約を仲介、代理する事業
資本金要件:資本金が一千万円以上である、負債額が資産額の10%に満たない
以上に示したように、事業には大きく利益配分を担う業態と、その仲介を行う業態があることがわかります。また、特に特例事業者という区分を設けることで、登録を行ったプロの投資家が不動産特定共同事業を行いやすい環境を整えています。
特例事業者とは、宅地建物取引業の免許を受けたプロの投資家を管理者とする、不動産特定共同事業を専業とする業者を指します。しかし特例事業者は必ず第四号事業者の仲介により特例投資家と契約を結ばなければならず、第三号事業の認可を受けた不動産特定共同事業者に不動産事業を委託する必要があります。
また、特例事業に出資を許可されているのは銀行や信託会社、宅地建物取引業者など、十分な資本か不動産投資上の判断力を持つ特例投資家に限定されています。
以上四種類の事業を営むにあたって、それぞれに十分な資本金を持つことが政令で条件づけられています。これは投資家の保護を目的とした規則でしたが、中小の事業者の参入を阻むものでもありました。このため、都市圏の大手不動産業者が許諾を得る一方、地方の不動産事業者はこの事業形態に参入できないという事態が発生していました。
不動産特定共同事業法改正の背景とその内容
不動産特定共同事業法の改正ポイントを詳細に見てみましょう。それぞれの改正には目的が存在するため、改正の背景を確認しつつ整理していきます。
中小の不動産事業への政策的要求
改正が求められた背景には、地方不動産事業の実情が大いに関係しています。人口減少や都市への過密などにより、特に地方で空き家や空き店舗が増加しました。しかし、これを扱う地方の不動産事業者には十分な資本力がなく、独力での再開発は限定的なものでした。
また、資金を募って再活用する事業は「不動産特定共同事業」とみなされるため、資本金要件を満たさなければ実施することができませんでした。物件はあるのに活用できない状況が続いていたのです。
地方の観光や物流等の分野を発達させる意味でも、不動産の再活用は必要不可欠です。いたずらに老朽化するまま放置された物件ではなく、良質な不動産ストックを増加させるための施策が求められました。そこで注目されたのが「不動産特定共同事業法」だったのです。
法改正により、不動産特定共同事業の円滑かつ適正な取引環境を整備し、活発な投資環境を作ろうとしました。この目的を念頭におけば、今回の改正ポイントを容易に理解することができます。
不動産特定事業法改正の三大ポイント
小規模特定不動産共同事業の新設
地域の小規模な不動産業者でも不動産特定共同事業に参入できるように、小規模特定不動産共同事業が定義されました。
小規模特定不動産共同事業とは、これまでの第一号・第二号事業について、資本金要件を大幅に引き下げた事業形態を指します。改正前の第一号事業の資本金要件が一億円だったのに対して、小規模第一号事業の資本金要件は一千万円に引き下げられました。
その代わり、事業参加者から集めることのできる出資額に百万円の上限が課され、すべての出資者の合計額でも一億円を超えないことが条件づけられました。
これにより、運用可能な資金の範囲は限定されるものの、小規模な業者でも小規模不動産特定共同事業を営めるようになりました。
電子化への対応の必要性
この改正で地方や郊外の事業者だけが活力を得たわけではありません。近年インターネットを通じた取引が拡大していく中で不動産特定共同事業法にもインターネットを介した取引に対応する必要が出てきました。しかし、2013年に改正された現行の同法にはインターネットなどの電子取引に関する条文は存在していませんでした。
そのため、この改正で電子取引に関する条文が追加されたのです。電子取引に関わる改正については、不動産投資全体に与えるインパクトも大きいため、後半で特に取り出して解説します。
規制見直しの必要性
また、さらに不動産投資市場を活性化するために、現行法で定められていたいくつかの規制が緩和されました。緩和された事項は以下の通りです。
1.プロ投資家向け事業の約款規制の廃止
特例事業者の事業に対する約款規制が廃止されました。約款とは、不動産特定共同事業において複数の投資家と結ぶことになる不動産特定共同事業契約の鋳型のようなものです。
これまで、特例事業者は約款を事前に登録しておき、認可を受けた約款に基づく契約を結ばなければなりませんでした。しかし改正後は、特例投資家のみによる出資で成立する不動産特定共同事業について、約款の登録が必要なくなりました。
これにより、銀行や不動産事業者など、十分な資本か投資判断力を有する団体が柔軟に出資と利益配分の契約を作成することができるようになりました。
2.適格特例投資家限定事業の創設
機関投資家などの高度に専門的な投資家、すなわち適格特例投資家のみが事業参加者の場合は、事業の許可がいらず、届け出のみで不動産特定共同事業ができるようになりました。
この認可資格は特例事業よりも緩和され、中小企業でも認可されるケースが増えてきています(参照元:国土交通省「不動産クラウドファンディングによるガイドラインの策定等」)。
3.事業参加者の範囲の拡大
不動産の修繕などのリスクの小さな一部事業について、それが特例事業として行われる場合、一般投資家も参加できるようになりました。
これらの改正により不動産特定事業への参加のハードルが下がったため、今後も不動産特定事業の投資がさらに活発になっていくでしょう。
以上が平成29年度の不動産特定共同事業法の改正の主な背景とその内容です。
不動産とクラウドファンディング
さて、この改正におけるインターネット対応について、詳細に確認しておきましょう。2013年の改正では対応されませんでしたが、この数年間で急速に発達した不動産クラウドファンディングへの対応は特筆に値します。
不動産特定共同事業法に基づく不動産の証券化
20年ほど前まで不動産投資には多額のお金がかかり、誰でも手軽に手が出せるようなものではありませんでした。しかし、それでは市場に参加する投資家が限定されてしまいます。
そこで不動産の証券化というアイデアが利用されるようになりました。不動産から生じた利益を得る権利を証券として配分し、一口の投資額を小さくすることで不動産への投資難易度を下げる試みです。不動産を証券化することによって小額からでも不動産投資が始められるようになり、投資家の数が増えるのに伴い、不動産投資市場も拡大してきました。
不動産の証券化による取引にはいくつかのスキームが存在します。そのうち匿名組合契約に基づく証券化は、不動産特定共同事業法に基づいて実施されてきました。他の不動産証券化スキームと異なり、匿名組合契約では不動産特定共同事業者とそれぞれの出資者は個別に契約を結びます。このとき実際に有価証券が引き渡されるわけではなく、交わされるのはあくまで匿名契約です。
また、匿名組合では出資者も事業参加者とみなされますが、不動産の所有権や業務の執行権は不動産特定共同事業者に帰属します。
電子取引への対応
この改正では、直接にクラウドファンディングを定義したわけではありません。実際の改定内容は、不動産特定共同事業の契約を電子的に処理することを可能にしたに留まります。
電子取引を扱う場合には、その旨をあらかじめ申請し、適切な設備を整えるよう要求されています。しかし、この電子取引への拡張により、不動産特定共同事業法に基づく不動産証券化スキームまでも拡張されることとなったのです。
クラウドファンディングへの拡張
他のスキームと異なり、有価証券の取引を行わない不動産特定共同事業法による不動産証券化スキームはクラウドファンディングと親和性を持ちます。
クラウドファンディングとはインターネットを通して不特定多数の人々に事業計画を提示することで、賛同者から出資を募る資金調達手段です。不動産投資においては、クラウドファンディングは小口の証券化された不動産投資として認識されています。しかし一般的なクラウドファンディングでは利益を求めず寄付や地域貢献として出資を行う文化があり、この資金を地方の不動産再生に役立てることが期待されていました。
改正以降、クラウドファンディングを不動産特定共同事業法に基づいて処理することができるようになりました。クラウドファンディングでは有価証券が発行されず、取引は電子的に扱われます。
この法改正によって電子取引が許可されたため、不動産特定共同事業法に基づいてクラウドファンディングを実施するスキームが拡張されました。契約が電子取引で実施される点を除けば事業スキームに変化はありませんが、幅広く投資を呼び集めることができるようになった点でこの変化は重要です。従来の投資家層とは異なる投資家を含め、不動産投資の市場に資金が流入することになります。
不動産クラウドファンディングについては以下の記事に詳しく書かれています。
不動産特定共同事業法改正が不動産業界に与えた影響
不動産特定共同事業法が不動産業界に与えた影響は以下のようなものです。
小規模特定不動産共同事業の創設による投資の活性化
小規模特定不動産共同事業が創設されたことによって、今までよりも不動産共同事業を行うのに必要な資本金の額が緩和され、小規模な事業者でも不動産共同事業に参入することが容易になりました。
そのため、小規模な事業者が規模の小さい案件でも手掛けることができるようになったのです。これまで大手不動産会社など限られた事業者のみが行えた再生事業を小規模な事業者が手掛けられるので、今後もどんどん不動産投資市場が活性化されるでしょう。
適格特例投資家専用の簡易的な手続きの導入
適格特例投資家を新たに定義することで、届け出のみで不動産特定共同事業を始めることができるようになりました。
以前は宅地建物取引業の免許が必要、資本金1億円以上など厳しい条件がありました。現在国土交通省が公開している不動産特定共同事業者許可一覧を見ると、大手企業だけでなく中小企業も特例事業者として名を連ねるようになっています。
このことからも、適格特例投資家専用の事業を届け出のみにしたことは大きな変化だと言えるでしょう。
中古物件の活用を意識した投資事業が増加
この改正には、不動産ストックの活用を促進する意図がありました。現在でも地方創生・地方活性化に向けた取り組みの一環として、空き家や空き店舗の活用を目指した事業に不動産投資の資金を活用しようという動きが全国的に見られます。
改正によって、地方の小規模な事業者が認可資格を得て、これまで価値が失われていた地域の物件再生が進んでいます。もしかしたら今後は、地区全体が総合的に再開発されるという事態も起こるかもしれません。その場合、周辺の新築・中古物件は共に価値が見直されることになるでしょうから、情報は常に収集しておくことをおすすめします。
クラウドファンディングの活性
改正により、「電子取引業務を的確に遂行するために必要な体制が整備」(不動産特定共同事業法第7条より抜粋)できた上で許可等を受けた場合に、クラウドファンディングを行うことができるようになりました。
上記で解説した通り、電子取引に関する内容がこの改正で明文化されました。どのような体制を整える必要があるのか、国土交通省は「電子取引業務ガイドライン」を公表しています。平成31年2月28日時点では、不動産特定共同事業の許可を受けた業者(小規模不動産特定共同事業者を含む)の中で電子取引業務の取り扱っている業者は8社でしたが、現在では10社に増加しています。
株式会社LIFULLといった大手企業株式会社LIFULLのグループ会社もクラウドファンディング参入を表明しています。今後は電子取引業務の取り扱い業者が増え、クラウドファンディング業者が増加していくと予測できるでしょう。
また、2019年4月より、より不動産クラウドファンディングの活用を促すため、国土交通省より施策が実施されています。電子取引業務ガイドラインの策定、不動産特定共同事業法施行規則の改正にて、クラウドファンディングを実施する人へ向け、備えるべき業務管理体制、取扱プロジェクトの審査体制及び情報開示項目の明確化を行い、長期・安定型の不動産クラウドファンディングへの参加を促進しています。
まとめ
今回は、2017年6月に公布され、12月に施行された不動産特定共同事業改正の法律案の概要と、それが不動産投資に及ぼした影響を解説しました。
これからも、中小の不動産事業者が不動産特定共同事業に乗り出すことで、空き家などの活用が進み、地区全体の価値が更新される事態が予想されます。また、2019年4月の施策実施により不動産クラウドファンディングもどんどん活性化されていくでしょう。
投資のスタイルに応じて、これらの影響は様々な形で現れるのではないでしょうか。この情報をこれからの不動産投資に役立てていただければ幸いです。
少額で始める不動産投資について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
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