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分譲マンションへ投資をする場合に必要となる「修繕積立金」。月々の出費は決して楽な負担ではありません。それでは、修繕積立金がない物件はお買い得なのでしょうか?本記事では、修繕積立金の役割をご説明したうえで、修繕積立金が安い物件や、全くのゼロといった物件を購入して失敗した事例を紹介いたします。
不動産投資の失敗事例について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
修繕積立金とは
マンションの維持や管理に必要な経費としては、「管理費」と呼ばれるものと「修繕積立金」と呼ばれるものがあります。
マンションには外壁、屋根、エントランス、エレベーター等の共有部分があり、これらの設備には日常的な維持管理が必要です。通常、区分所有者は「管理組合」を組成し、共有部分の維持管理に関する仕事を管理組合に任せます。
一方で、日常的な維持管理をしっかりと行なっていても、外壁やエレベーターなどの設備は少しずつ劣化していきます。そこで必要になるのが、ある程度大規模な「修繕」を定期的に行うということです。これは快適な生活を送るために大切であるだけでなく、不動産の資産価値を守るという観点からも必要不可欠です。
ただし、マンション共有部分の修繕工事は規模が大きいため、費用も多額に及びます。工事を行う時にその費用を区分所有者から一括徴収することは、所有者に大きな負担を課すことになってしまうでしょう。
そこで、将来必要になる修繕費用を、月々の支払いによって計画的に積み立てておくことが効果的です。これを「修繕積立金」と呼びます。
管理費も修繕積立金も、同じように毎月管理組合へ納める必要があるため混同しがちですが、このようにそれぞれ明確に区別された目的があることに注意しましょう。
より具体的には、管理費と修繕積立金にはそれぞれ以下のような目的があります。
管理費
- 管理会社に委託する際にかかる費用(管理員人件費、事務費用、ゴミ処理費用等)
- 管理組合運営にかかる費用
- 共有施設の水道光熱費
- 共有設備の清掃点検等維持費
- 共有部分の火災保険やその他損害保険の保険料
- 軽微な損傷等の補修費
修繕積立金
- 一定の年数ごとに行われる計画的大規模修繕費
- 不測の事故や災害、その他の特別事情による修繕費
- 共有部分の変更
- 建物の建て替え等にあたって必要な調査費用
修繕積立金の基本的な仕組みを理解いただけたと思います。
ここからは、修繕積立金の特徴についてより細かく見ていきます。
マンション投資の修繕積立金について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
修繕積立金の値上がり
修繕積立金に関してもっとも注意が必要な特徴としては、新築時から築年数が経つにつれて、月ごとの積立金額が値上がりをする可能性があるという点があります。
突然ですが、マンションを人間の身体に置き換えて考えてみましょう。人は若い頃は健康で体を壊しにくく、また病気にかかっても比較的簡単に治すことができるので、医療費は安く抑えることができます。しかしだんだんと歳を取るにつれて、どうしても身体の故障が起こりやすくなり、医療費がかさみ始めます。
マンションも、基本的にはこれと同じです。築年数が深まれば、それだけ修繕する箇所が多くなり、修繕の頻度も高くなります。そのため、築年数の浅い当初の物件状態を前提にして考える修繕費用は、築後何十年も経った時点の物件状態を前提にして考える修繕費用と比べて、決して同じではありません。
築年数の浅いマンションは、売りに出される時、多くの買い手がつくよう修繕積立金を意図的に下げて設定している場合があります。大規模修繕は必ず周期的に訪れるものですから、安く設定された修繕積立金には後で必ずしわ寄せがあり、計画外の値上げや追加徴収という思いがけない出費につながります。
均等積立方式
修繕積立金の突然の値上がりによって投資計画に狂いが生じることは、ぜひ避けたいものです。それを避ける方法としては、マンションの購入前に長期修繕計画書を参照し、修繕積立金を「均等積立方式」で徴収している物件を選ぶというものがあります。
「均等積立方式」とは、築後20〜30年後までに見込まれる修繕工事費の累計額を計算し、その算出結果をもとに、その年までの月々の支払い金額を均等に割り出すという積立計画方式です。
この方式の特徴としては、築年数が深まるにしたがって増加する修繕費をあらかじめ折り込み、定額負担として設定するため、費用負担が安定することにあります。
一方で留意点として、突発的な故障が発生した場合は、均等積立方式でも長期修繕計画に見直しが必要となることがあります。
段階増額積立方式
均等積立方式とは反対に、修繕の必要性が高まるのに応じて積立金を増額していく方式を「段階増額積立方式」と言います。購入時点での修繕積立金が適正価格よりも安く設定されている物件は、こちらに当たる場合が多く、将来的に負担額が段階的に大きくなることを前提としています。
築年数が浅いうちは比較的低い金額で済むという利点がある一方、計画的な増額であったとしても区分所有者の間で合意形成ができず、計画通りに値上げを実行できないというケースもあります。そのような事態に陥ってしまうと、必要な値上げができないまま時間が経ち、修繕積立金が不足して修繕ができないというトラブルに発展します。
均等積立方式と段階増額積立方式の比較
それぞれの方式による修繕費積立計画を具体例で比べて見ましょう。
ここでは、国土交通省が平成23年に発表した「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(リンク)に沿って解説します。より詳細な論点を確認したい場合は、実際のガイドラインをご覧ください。
まず均等積立方式について考えます。
築後 30 年間に必要な修繕工事費の戸当たりの総額 が522 万円だったとすると、これを30 年間で均等に割ることで、月額 14,500 円(年額 174,000 円)という積立金額を計算することができます。
次に段階増額積立方式で、同じく築後 30 年間に必要な修繕工事費の戸当たり総額522 万円について考えます。
まず購入時に、「修繕積立基金」を 36 万円徴収します。次に、初年度の修繕積立金を月額 6,000円(年額 72,000 円)とし、5年ごとに月額 3,000 円ずつ値上げします。結果として、26~30 年目には月額 21,000 円(年額 252,000 円)の積立金を徴収します。結果的に、30年後には均等積立方式と同じ522万円が積み立てられる計算となります。
あらかじめ自分の購入する物件がどちらの方式で修繕費を積み立てているのか確認しておきましょう。
修繕積立金の目安
「マンション修繕積立金に関するガイドライン」には、修繕積立金の目安についての記述があります。分譲事業主によって決められた修繕積立金の金額が適正な設定になっているかどうかを購入前に判断するための指標となるものですので、確認してみましょう。ただし、それぞれのマンションの長期修繕計画は立地場所や環境などの様々な要因によって変動するので、算出される金額はあくまで目安としましょう。
(算出式) Y=AX(+B)
Y:購入予定のマンションの修繕積立金額の目安
A:専有床面積当たりの修繕積立金額(下表)
X:購入予定のマンションの専有床面積(㎡)
( B:機械式駐車場がある場合の加算額 )
※駐車場の維持管理・修繕工事費や駐車場使用料をマンションの管理費や修繕積立金と区分して経理している場合や、機械式駐車場の修繕工事費を駐車場使用料収入で賄うこととする場合には、「機械式駐車場がある場合の加算額(B)」を加算する必要はありません。
上記の計算式の「A」にあたる金額は、以下の表にある「平均値」を参照します。
階数/建築延床面積 | 平均値 | |
【15 階未満】 | 5,000 ㎡未満 | 218 円/㎡・月 |
5,000~10,000 ㎡ | 202 円/㎡・月 | |
10,000 ㎡以上 | 178 円/㎡・月 | |
【20 階以上】 | 206 円/㎡・月 |
以上の計算方法を用いてどのように計算を行えばいいか、実際の具体例を用いて見ていきましょう。
例えば、10 階建て、建築延床面積が 8,000 ㎡のマンションにて、専有床面積 80 ㎡ の住戸を購入する場合は、
A: 202円/㎡・月
X: 80 ㎡
ですから、これを計算式に代入し、
Y = 202円 × 80㎡ = 16,160 円/月
となります。
「修繕積立金ゼロ」の意味すること
物件から得る運用益をできるだけ大きくするために、ランニングコストをなるべく抑えたいと考えるのは自然なことです。その場合、管理費や修繕積立金もコストと見做し、これらが安い物件を探したくなるかもしれません。しかし、修繕積立金がゼロの(もしくは少ない)場合には、後々になって逆に高額の修繕費が必要になるというリスクがあります。
大規模修繕工事で必要になる費用総額
マンションの大規模修繕工事には、実際にどれくらいの費用がかかるのでしょうか。
東京都市整備局が平成25年に、都内の全ての分譲マンションおよび賃貸マンションを調査対象とした「マンション実態調査結果」を発表しました(調査時平成23年8月1日)。
これによると、分譲マンションでの大規模修繕工事費用総額は以下の図のような分布になっています。
これを見ると、1,000万円超〜5,000万円の工事費がかかったケースが全体の57.2%を占めていることが分かります。このような工事費は、外壁、屋根、エントランス、エレベーター等の共有部分、つまり資産価値を保つために必要不可欠な部分の修繕に使われるものであるため、大幅に削ることは難しいでしょう。
戸数と費用の関係
以上はマンション全体での工事費用でした。では一戸あたりの工事費用はどの程度になるでしょうか。同じく「マンション実態調査結果」によると、大規模修繕工事の一戸あたり費用は以下のようになることが記されています。
マンション全体の住宅戸数によって金額層の割合が異なるものの、20戸までの小規模なマンションや逆に201戸以上の大規模なマンションを除けば、一般的な規模のマンションでは60万円〜90万円の戸あたり修繕費用となるケースが最も多く、その前後(30万円〜60万円および90万円〜120万円)にも一定の割合で分布していることが分かります。
また、戸数が小さくなればなるほど戸当たりの工事費用が大きくなることが分かります。
この数値は、一人のオーナーが実際に負担することになる修繕費用ではありません。しかし、修繕費全体を見た時に概ねいくらの修繕工事費用が必要となるかを理解する上での参考になります。
積立金が不足しているとどうなるか
もし修繕積立金が不足してしまい多額の工事費用をまかなえない場合、修繕一時金として数十万円、時には100万円以上の多額の費用の支払いが必要になるケースがあります。
例えば、以下のような中古マンションを購入するとしましょう。
- 積立金額毎月5,000円
- 築10年
- 10 階建て
- 建築延床面積 8,000 ㎡
- 専有床面積 80 ㎡
この場合、購入時点で積み立てられている累積金額は
5,000(円)×120(ヵ月)=600,000円です。
しかし、この金額では次の所有者は大きな負担(実質的には負債)を抱えることになります。
さきほどの「マンション修繕積立金に関するガイドライン」に沿って、この物件における適切な修繕積立金を計算してみましょう。すると、
80 ㎡×202 円/㎡・月 = 16,160 円/月
となります。
つまり、本来であれば既に16,160円×120(ヵ月)=1,939,200円の累積積立金があるべきであり、実際の積立金600,000円との差額である約130万円は次の所有者が負担することになります。
修繕積立金ゼロの場合
修繕積立金という制度を当初から採用していない物件は、昨今では見られません。しかし中には、築後何年かして修繕積立金をゼロへと変更し徴収しなくなる物件があります。ランニングコストを抑えられるという点で魅力を感じてしまうかもしれませんが、当然ながら、修繕積立金が徴収されるのはそれが必要不可欠だからであり、それを徴収しないということは将来へツケを回しているにすぎません。
1回目の大規模修繕は築後12年ごろに行われることが多いので、中古物件としての購入であれば購入から数年のうちに、不足している100万円以上の修繕費を修繕一時金として徴収される可能性があります。また、そもそも大規模修繕を行わないといったケースもあるでしょう。いうまでもなく、これは大問題です。
投資をするために熟慮して購入した物件が、修繕積立金を軽視していたがために思わぬ出費がかさんだり、資産価値が急落してしまったりしては、元も子もありません。
まとめ
ここまで分譲マンションへ投資をする場合に必要となる「修繕積立金」について解説してきました。長期的に見て、マンションの大規模修繕費用は必ず必要となる経費であり、それがずっとゼロということはありえないと考えてよいでしょう。
投資計画を大きく狂わせる支出が発生したり、資産価値を大きく落としてしまい売却ができない状態に陥ったりすることは、当然避けたいところです。月々の修繕積立金を安くするという目先の損得に囚われず、将来を見据えた視点で物件選びを行いましょう。
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