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近年、何かと話題にあがることの多い「民泊」。2018年6月15日に「住宅宿泊事業法」、いわゆる民泊新法が施行されました。既存の民泊の運営・民泊投資にはどのような影響があるのでしょうか。今回は、民泊新法の内容を紹介したうえで、民泊投資と不動産投資の違いを解説します。
民泊の経営時に守るべき規制
そもそも、「民泊」とはいったいどのような形態の宿泊所を指すのでしょうか。一般通念として世の中に広がっているのは、最大手「Airbnb」の提供するような、「ホテルでは無い、一般の住宅やマンションの一室を一般向けに開放し、宿泊日数や人数に応じてお金を受け取る」というざっくりとした説明でしょう。
無許可営業は違法
しかし、誰もが簡単に自分の持っている部屋や家を、料金を定めて開放することができるわけではありません。例えば子供が独り立ちした家庭で、空いた部屋の情報を直接ネットに公開し、料金を定めてお客さんを呼ぶという行為は、一見するとスペースの無駄をなくしお金も得られる効率的な行動に思えます。
しかし、この方法は旅館業法上「違法」になります。人々の安全に関わる業務である以上、宿泊業務を行うにあたってはきちんと法律を遵守しなくてはならないのです。
民泊新法以前には、法的に違反のない民泊営業には、二つの方法がありました。旅館業法で定められている「簡易宿所」として旅館業法上の許可を取得するか、「特区民泊」とするかの二つの方法です。
簡易宿所としての営業
一つ目の「簡易宿所」では、各都道府県から許可を得て、保健所による施設検査を受けるなどの手続きののちに営業を行います。この過程にはおよそ数週間程度を要しました。必要書類も煩雑で、構造設備の概要・半径300m以内の見取図・建物の配置図・電気設備図等が求められ、さらに周囲に教育施設がある場合、その施設の学校長の意見書の提出を求められるほか、マンションや集合住宅は管理組合からの「承諾書」等も必要となりました。
特区民泊としての営業
二つ目の「特区民泊」では、以上の簡易宿所としての諸条件を満たす必要がありません。「特区民泊」は全国5カ所の市域に設けられた特例地区で、市区の保健所の認可を受ければ旅館業法の例外として民泊営業が可能になると定められました。これにより自治体ごとの条例で定められた条件を満たしていれば、より規制の少ない条件で民泊営業を開始することができる特区が設けられました。詳細は内閣府のHPで解説されています。
いずれの方法であっても、宿泊日数や周辺住民への配慮などの条件は課されています。特に簡易宿所として営業する場合には、その届け出に課される条件は多く、実質的に旅館業と変わらない厳しい検査を要求されていました。
国内外の民泊斡旋業者の間では、今日民泊として営業されているものの中には複雑な許諾プロセスを嫌って、不認可で営業する民泊も多いとの警戒感ももたれています。このことから、国外大手の民泊仲介サービスAirbnbが日本市場への本格参入に踏み切らないなどの弊害も生じていました。
民泊新法とその影響
そんな中、にわかに話題を呼んでいるのがこの6月15日から施行された「民泊新法」です。この民泊新法では、「住宅」であれば、届け出を行うのみで営業を開始できます。この法律の評価は二通りあり、第一には大きな規制緩和という見方です。その一方で、民泊を営業してきた人にとっては、むしろ厳密な規制が登場したことで営業が難しくなるとの評価もあります。民泊新法の要点を以下に整理します。
民泊として営業可能な建物
これまで民泊営業を区別していた「簡易宿所」や「特区民泊」に変わって、「住宅宿泊業」が定められました。民泊新法は、民泊というビジネスを住宅の空室期間を活用したビジネスとして定義し、法的な管理の下で実施することに主旨が置かれています。それゆえ、民泊は旅館業法の管轄から外れ、民泊新法によって扱われることになりました。これまでの規制はほとんど完全に刷新されることになったのです。
新法における民泊にはいくつかの条件があります。まず「住宅宿泊業」という言葉にあるように、「住宅」として建設・利用されている建物で宿泊業を営む場合にこの法律が適用されます。このため、民泊営業のためだけに建物を購入したり建てたりしても、そこを住宅として利用している人がいるか、あるいは住人を募集している状態になければ違法営業に陥ることになります。
加えて、住宅としての利用という前提から、客を宿泊させる日数にも制限が設けられました。宿泊日数については、「人を宿泊させる日数として国土交通省令・厚生労働省令で定めるところにより算定した日数が1年間で180日を超えないもの」とされています。したがって、どれほど営業に尽力しても、1年の半分しか宿泊客を得ることはできません。
民泊営業上の規制緩和
その一方で、届け出については規制緩和が行われました。これまで簡易宿所としての登録は許可制でしたが、民泊新法では届出制になるなど大規模に緩和されています。主な提出物も事業者の氏名や住所、営業予定の住宅の間取り図や誓約書程度で、複雑な認可プロセスは伴われません。
また、旅館業法上求められていた諸条件も緩和されました。たとえば地方自治体の条例でしばしば定められていた「受付スペースの設置」や、客室面積の条件、あるいは客用の浴室設置など、普通の住宅とは異なる設備の設置はもはや求められません。通常の住宅にある規模の浴室や洗面所・便所が備えられていれば、民泊を営むことができます。これにより、より多くの住居で民泊を開始することができるようになりました。
住宅宿泊事業を三種類に分割
加えて、民泊にともなうビジネスの業態も三つに明確に分けられました。住宅宿泊事業者・住宅宿泊管理業者・住宅宿泊仲介業者の三種類です。
「住宅宿泊事業者」は経営する民泊の経営責任者と考えるとわかりやすいかもしれません。必ずしも常に宿所にいるわけではありませんが、衛生管理や安全性・利便性を確保する義務を負います。
一方、「住宅宿泊業管理者」は基本的に宿所に滞在して、実務的な管理業務に当たります。民泊の運営者であり、経営責任者とは別に管理責任者が雇用される場合には別の人物がこれを担当します。
ただし、自宅で民泊を営む場合には、住宅宿泊事業者と同管理業者とを兼任することができます。その場合、住宅宿泊管理業者は基本的に民泊営業中に常駐することが前提とされていることに注意が必要です。営業中に1〜2時間以上宿所を離れる場合には、本人とは別の住宅宿泊管理業者に委託することが義務付けられています。
第三の業態は「住宅宿泊仲介業者」です。
以上に定められた民泊の宿泊を仲介する業者に法的に明確な処遇が与えられ、届け出によって住宅宿泊仲介業を営むことができるようになりました。
Airbnb登録基準の明確化
以上の法的な整備によって、民泊事業最大手のAirbnbが日本での営業に本腰をあげました。
それまで、Airbnbは民泊仲介業者として存在していただけであり、明確な住居の規制などは行なっていませんでした。
その結果、民泊新法を適用させる建物の届け出が開始された2018年3月15日まで、Airbnbのサイトで表示される日本国内の物件のうち、実に9割を超える物件が都道府県から許可を取っていないもの、つまり「違法」物件でした。もっとも、届け出をしていないからといって明確な被害などが出ない限り、法によって罰せられることはありません。それゆえ暗黙の了解のうちに民泊営業は進められていたのが実情だったのです。
しかし民泊新法によって、今後「民泊新法で認められている物件」「簡易宿所」「特区民泊」以外の物件は順次Airbnbのリストから削除すると、社長が明言しています。基準が明確になり、届け出のハードルが下がって、民泊業界は活況を呈すると予想されています。今後は官民が連携して、より健全な民泊市場が発展していくことが期待されています。
東京都(23区)の規制状況
民泊新法では、自治体ごとに地域の実情に沿った追加の規制を行うことが認められています(「上乗せ規制」といいます)。東京都のそれぞれの区も、独自のルールを条例で定めています。ここでは一例として、東京都内の各区の規制を整理しておきます。
中央区の上乗せ規制
中央区では、民泊の期間を毎週「土曜日の正午から翌月曜日の正午」の2泊3日のみと定めています。平日の日中は働きに出て家を留守にする人が多く、安全性の担保に問題があるからです。
港区の上乗せ規制
港区では、家主居住型(家の中の一室をお客さんに貸し出す)と家主不在型(セルフチェックインなどでお客さんに滞在中の一切を任せる)で規制の区別を行っています。前者には特段規制はありません(年間180日以下という日数規定のみ)が、後者は安全性の観点から、春季・夏季・冬季休業の期間にしか民泊の営業を許可していません。
文京区の上乗せ規制
文京区では、区内をエリア分けしてそれぞれのエリアごとに制限を設けています。「住居専用地域、住居地域、準工業地域、文教地区」の四種類のエリアにおいて、民泊が実施できるのは金曜の正午から翌日曜の正午の2泊3日のみです。これは、先の中央区の理由と同じです。
自治体別の規制を確認する
このように、民泊新法に合わせ、基本的に23区全てのホームページに「民泊を実施する人向けの情報ページ」が存在しています。規制の厳しさは区によって違っており、多くの区が「週末周辺の2泊3日のみ民泊を許可」という日数規定を作っている中で、港区と台東区が条件付きではありますが年間を通しての民泊業務を許可しているのは非常に魅力的と言えるでしょう。
また東京都のみならず、他の道府県でも今後追加の条例が決定し、法整備がなされていくことが予想されます。民泊を営業する際は、物件の所属する自治体の情報を確認し、「年間180日以内」という規制以外にその自治体がどのような規制を行っているかを確認したうえで、民泊実施の是非を判断しましょう。
生まれて間もない分野であるため、自治体ごとに言葉の定義が曖昧なこともしばしばです。自分の行おうとしている民泊がルールに則っているのか、それとも違法になってしまうのかは、直接問い合わせて確認するのが一番わかりやすいでしょう。
民泊経営の三つの方法
さて、民泊新法の概要について整理しましたが、次に「投資としての民泊」がどう変わったのかに注目してみましょう。不動産投資Timesでは、以前に民泊投資に関する記事を執筆していました(本当に稼げる?近年話題の民泊投資のメリット・デメリット)。まずはそこで触れられている民泊投資の三種類の方法を紹介します。
所有物件でホストになる
民泊投資一つ目の方法は、「私費で物件を所有」して「自分がホストになる」というものです。現在の民泊ホストのほとんどがこの手法を取っています。初期投資はかかりますが、お客様からの支払いが全て自分の懐に収まるという絶対的な利益性と、自分で維持管理することによる安心感・トラブルの少なさは魅力的です。
最近Airbnbで人気の手法としては、建築からしばらく経った空き家を安く買い取り、ホストが中をリノベーションして独自性を生み出し、顧客を獲得するというものがあります。これならば初期投資の費用も抑えることができ、費用対効果はさらに上昇します。
賃貸物件でホストになる
二つ目の方法は、「賃貸で物件を入手」して、「自分がホストになる」というものです。初期費用も抑えられて、自分で維持管理ができるので、一つ目の方法のデメリットを全て補った形になります。
ところが、「賃貸の又貸し」は条例や建物ごとの決まりで規制されているケースも多く、これを無視して民泊業務を実施すると管理人とトラブルになったり、最悪の場合は罪に問われたりする可能性もあります。現実的に可能かどうかは、実施前に念入りに問い合わせておきましょう。
所有物件を代理業者に委ねる
三つ目の方法は、「私費で物件を所有」して「管理を代理業者に任せる」というものです。つまり、自分で物件を購入してから、転貸可能物件として民泊参入を希望する業者に貸し与えるということです。初期費用はかかりますし、業者と利益を配分する都合上1回の宿泊あたり得られる利益は少なくなります。その代わり、自分で一切面倒な維持管理をすることなく、何をせずともお金が入ってくるというのは気軽で、非常に魅力的です。
ただし注目を浴びている市場であるからこそ、参入しようとする業者は様々です。お客様を十分に満足させられる、安心して維持管理を任せられる業者かどうかは、事前に何度も打ち合わせを重ねたりレビューを閲覧したりして、慎重に判断しましょう。
民泊経営のメリット・デメリット
以上の民泊投資の概要と民泊新法の普及を踏まえ、不動産投資と比べたメリット・デメリットを考えていきます。不動産投資といっても多岐にわたるので、今回は賃貸物件に絞って話を考えていきます。
利回りの評価
一番重要な利回りについてですが、民泊新法が大きなネックとなります。「年間180日以下」しか営業ができないのであれば、単純に考えても賃貸物件と比べて利回りは半分以下となってしまうのです。
これに加えて先の東京都の条例の例で述べた「週末周辺の2泊3日のみ営業可能」のような規制が入ってしまえば、利回りは1割に満たない状態が予想されます。それもそのはずで、この民泊新法は「もともと所有する住宅の一部をお客さんに開放する」という考えが基礎にあるため、新しく所有するというケースを支援はしていません。
より具体的に検証してみましょう。
2,000万円の都内の中古マンションのワンルームを購入して、賃貸経営と民泊経営でそれぞれ営業した場合、どうなるのでしょうか。渋谷区の宿泊をメインとした民泊の宿泊価格は1泊あたり2,000円前後です。駅に近いなどの好条件であってもワンルームでは3,000円程度が限界です。年に180日の制限ですべての日程で宿泊客を得られた場合、収益は36〜54万円です。平均的な利回りは1.8〜2.7%にとどまります。
一方、渋谷区のワンルームの家賃相場は10万円程度で、賃貸経営時の年間収益は120万円になります。利回りは6%で、民泊より高い利回りを実現しているのがわかります。加えて、修繕積立金などを共益費として別途徴収するならば、実質利回りではさらに差が生じるかもしれません。
収入の安定性の評価
収入の安定性についても、経営手法によりますが、賃貸経営を前提にしたほうが良いと考えられます。賃貸は基本長期契約であり、立地や間取りの条件が整っていれば、入居者が退去するまで継続的に利益を得ることができます。
一方の民泊は、賃貸経営における空室リスクに常時晒されます。たしかに「1泊から始められる」という気軽さと外国人旅行客の増加という背景もあり、比較的客を得やすい状況なのも事実です。しかし民泊新法を通じて競争が激化すれば、健全な経営を続けるには相応の継続的な努力は必要不可欠でしょう。競争に打ち勝つ高付加価値な民泊を営むアイデアを持っているなら、あるいは民泊に分があるかもしれませんが、それでもなお180日の営業日数制限が重くのしかかります。
収入や利回りの側面から考えれば、投資としての民泊営業は賃貸よりリスクが高くなります。しかし、民泊として営業することによって様々な旅行者と触れ合ったり、自らのアイデアで人気の民泊を作ったりする楽しみはそれらとは別のものかもしれません。収益や利回りの安定性よりそうした価値観に重きを置くなら、「スーパーホスト」を目指して経営を試みるのも悪くないかもしれません。
運用の手間の評価
運用面に関してはどうでしょう。
賃貸の場合、水道やガス・下水のトラブルなどを除いては基本的に維持・管理は全て居住者に任されます。賃貸ごとに規制が変わるわけでもなく、日本全国共通のルールで考えることができるのもポイントです。
それに対して民泊では、まずスタートから各地域の規制内容の把握に一定の手間を要しますし、新たに始まった分野であるがゆえ条例などのルールが流動的に変化し、その都度規制法に合わせるコストが生じます。業者に委託しない限り、維持管理を全て自分で行わなければならないのも負担となります。
賃貸・民泊の双方にメリットとデメリットが存在しますが、民泊が投資するに足る事業かどうかは、おそらくその物件が「どの自治体に属しているか」によって大きく左右されることは間違いありません。
まとめ
2018年は民泊新法の元年として、日本で民泊事業が大きく拡大する年になると予想されます。ですが自治体ごとに規制の厳しさはバラバラで、新たに始まった市場であるがゆえ流動的に規制の形態が変わりうるのが実情です。
民泊投資を実施する前に、自治体に問い合わせたり、複数の物件をじっくり吟味したりして、現実的に利益を見込める民泊投資かを見極めましょう。また、競争に打ち勝つアイデアがなければ、投資としては明らかに賃貸経営の方が優れています。民泊新法によって様々な民泊投資が提案されるかもしれませんが、民泊新法の内容をよく理解して、個別の案件を精査するようにしましょう。
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