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「破格相場で買える?」という期待もある不動産競売物件。不動産投資を成功させるためにも、物件をより安く購入することは確かに重要です。その点、裁判所が執り行っている「競売物件」であれば、市場の相場より大幅に安い価格で物件を落札できることも珍しくありません。
しかし競売物件には通常の物件にはない特有のリスクがあることをご存知でしょうか。今回は、競売物件の購入を検討する際に見逃してはならない要注意ポイントについて、実際の失敗例を交えながら解説します。
不動産について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
一般的な不動産購入と「競売物件」取得の違い
宅地建物取引業法による一般的な不動産取得
通常の不動産取引では、不動産の所有者と購入者を取引業者が仲介し、宅地建物取引業法に守られた取引が行われます。この取引に際して、購入者はあくまで消費者の立場に置かれます。それは不動産を居住目的で購入する場合も、投資目的で購入する場合も変わりません。取引の全ての過程で、不動産購入者は宅地建物取引業法による手厚い保護を受けます。
競売物件とは
宅地建物取引業法以外の枠組みで取引される物件に、「競売物件」があります。所有者の債務不履行などのために、裁判所が強制的に不動産を差し押さえたとき、その不動産は「競売物件」として競売にかけられます。不動産を取り扱う法律上の枠組みが異なるため、「競売物件」と通常の不動産取引は様々な面で異なる性質を持ちます。
競売物件について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
民事執行法
競売物件の取得にあたっては、民事執行法が適用されます。すなわち商取引としてではなく、裁判所による所有権の移転に関与したものとして処理されます。したがって、物件取得者は「消費者」としては扱われないため、消費者を保護するあらゆる枠組みが適用されません。競売物件を購入する場合、全責任を買受人(落札者)が引き受けなければならないのです。
しかし、競売物件をめぐってはトラブルも相次いだため、現在では買受人を保護する制度も整備されています。このため競売物件をめぐるトラブルは減少しつつありますが、依然として消費者に対する保護に比べると多くの責任を負わなければならないことに変わりはありません。
競売物件の特徴と情報
情報確認は三点セット
競売物件には「現況調査報告書」・「評価書」・「物件明細書」の3点セットが必ず公開されます。これらは裁判所が作成する物件情報であり、裁判所側から入札者に提供される唯一の情報です。これらの情報は全て開示されており、裁判所の物件閲覧謄写コーナーや競売物件情報サイト(Broadcast Information of Tri-set system, 通称BIT)で確認することができます。
「売りにくい物件」も含まれる
「競売物件」には、本来売ることを想定していなかった物件も含まれます。不動産仲介業者が紹介する物件は、利回りや立地、間取りなどの面で投資目的に特化した物件であるのが一般的です。しかし、競売物件には通常ではあまり市場に出回ることのない物件が含まれます。たとえば、極めて狭い土地、三角地などの変形地、農地、山間部や離島などの僻地物件などを目にすることができます。そうした特殊な物件を活用した事業などを計画している場合、競売物件は有効な物件取得手段と言えます。
最終価格は割安になるのが一般的
競売物件の物件価格は、不動産相場の3割安と言われています。なかには5~7割以上の価格差がある物件も存在します。決して物件が投資向きでないからというわけではありません。稀に含まれる優れた物件であっても、相場より安い価格で取引されるのが一般的です。この性質から、購入価格を抑え高い利回りを実現する物件取得手法として紹介されることもあります。
しかし、競売物件は必ずしもお得な物件とは限りません。この背景には、競売物件に含まれる特有のリスクの存在が関わっています。いくつかの失敗例を見ながら、競売物件の特性を学んでおきましょう。
競売物件の失敗例①:立ち退きトラブル
債務者と居住者が同じ場合
住宅ローンの滞納により競売物件となった物件を競り落としたものの、前の所有者がかたくなに立ち退きを拒否した。
法的に所有権を失っても、他に住む場所がないなどと主張して居住を続ける例があります。この場合、居住者にはなんら居住の権利は残されていません。立ち退きを要求するのは買受人の正当な権利と言えます。
それでも債務者が立ち退きを拒否する場合には、裁判所を介して引渡命令および強制執行の手続きを取らなければなりません。旧来は強制執行手続きが煩雑であったため、債務者が買受人を言いくるめて長期間居座る事例や、高額な立ち退き料を要求する事例も相次ぎました。しかし今日では、これらの手続きは簡素化され、強制執行は比較的容易に実行できるようになりました。
そうは言っても、強制執行に手続きが必要である点は変わりありません。手続きに一切の間を置かなかったとしても、物件の落札から強制執行までは2ヶ月ほどを要します。このため、可能な限り債務者との直接交渉によって退去日を調整するのが望ましいでしょう。その場合であっても、落札から1ヶ月から2ヶ月の期間は改築を含めて一切物件の運用ができないことを覚悟する必要があります。
債務者と居住者が異なる場合
不動産投資ローンの不払いにより競売にかけられた投資用マンションを競り落としたものの、すでに貸借人が居住しており、改装や別の入居者を招くための立ち退きに同意しなかった。
管理者の都合で住居が競売にかけられたとき、合法な賃貸借契約のもとに居住していた賃借人は制度的に保護されています。競売に伴って賃借人が不利益を被ることがないよう、6ヶ月間の建物明渡猶予制度が設けられています。
6ヶ月の猶予期間中は、賃借人は競売成立前と同額の賃料を買受人に支払うことで居住の権利が保証されます。また、6か月の猶予期間を超えて占有者が賃貸借の継続を希望する場合、前のオーナーとの賃貸契約をそのまま新しいオーナーの契約として引き継ぐ制度もあります。この制度により、賃借人は契約に伴う敷金や礼金、更新料を追加で支払うことなく居住を続けることができます。
賃借人が保護される一方、この制度は買受人に不利益をもたらします。賃借人が退去する際の敷金の返還が買受人の責任事項となるからです。しばしば債務者は敷金を保管しておらず、買受人は受け取ってもいない敷金の返還に迫られます。補填を債務者に請求すること自体は可能ですが、その手間と実現性を考えれば、費用負担は覚悟しておくべきでしょう。
立ち退きトラブルについてのまとめ
競売物件は、取得後しばらくの間は運用できないと思っておいた方が無難でしょう。もし支払いに銀行からのローンを割り当てていた場合、この期間も利息が発生してしまいます。また、立ち退きを求める強制執行の手続きや、貸借人の退居にともなう敷金の返還責任など、競売物件でのみ発生する様々な手続きや責任に対する知識は必要不可欠です。
競売物件の失敗例②:多額の修繕費
裁判所の提示した三点セットの情報を元に購入を決めたが、いざ取得後に内覧すると想定以上に建物・設備の老朽化が進んでおり、多額のリフォーム費用がかかってしまった。結果として当初想定していた高い利回りを実現できなかった。
大抵の場合、競売物件には居住者がいます。そのため、不動産の取得前に内覧して設備状況を確かめることができません。裁判所が提供する3点セットの情報だけを信頼して、物件価値を判断し入札することになります。3点セットの情報は確かなものではありますが、それだけで物件の状態全てを判断することはできません。
競売物件にはリフォームがつきものです。通常の物件取引では、物件購入時に発見されていなかった物件の瑕疵(不備)の除去費用を売主が補償する「瑕疵担保責任」が伴われます。しかし競売物件は通常の購入取引とは異なるため、瑕疵が見つかったとしても買受人が瑕疵の除去費用を全て負担しなければなりません。それゆえ、競売物件を購入する際にはあらかじめリフォーム費用を計算に入れておく慎重さが必要不可欠です。
関連記事:瑕疵担保責任、隠れた瑕疵とはどんなもの?2020年4月民法改正の内容も解説
競売物件に多い戸建のリフォームはかなりの費用を必要とします。もちろん築年数や規模にもよりますが、小さいものでは30万円、大きなリフォームになれば2,000万円ほどかかることもあります。これほどの規模の大きな出費を想定していなければ、投資計画は大きく狂わされてしまうことでしょう。
なお、投資目的で競売物件を購入する場合、不動産会社が競売を代行し、買受後に不動産会社から購入するという手順を取ることもできます。競売物件取引の代行を扱っている不動産会社であれば、競売物件に伴うリスクや運用計画の適切さについて評価することができるかもしれません。
マンションの修繕積立金について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
多額の修繕費についてのまとめ
競売物件では、落札後に思いがけないリフォーム費用がかかる可能性があることを考慮に入れておく必要があります。競売物件は比較的安価なため、高い利回りを想定して購入に踏み切りがちです。しかし実際には購入費用以外にも様々な費用が発生します。可能ならば、代行業務を行なっている不動産会社と協力しつつ、修繕費や登記費用等を計画に組み込んだ物件の運用を考えなければなりません。
関連記事:中古マンションへの不動産投資の失敗例
関連記事:リノベーション中古物件のリスクとは?
関連記事:投資物件の価値を左右する!修繕タイミングと目安コスト
競売物件の失敗例③:残された動産の処分
強制競売物件を買い受けたが、屋内には家具や家財に加えて大量のゴミが残されていたため、ゴミの処分費用と清掃費用が発生してしまった。
強制競売物件
債務者と連絡が取れないという理由で、債権者が債務者名義で物件を強制的に競売にかけるケースがあります。その場合、屋内に荷物を残したままの債務者はすでに行方がわからず、連絡も取れなくなっているということも考えられます。
競売物件では、不動産それ自体の権利は買受人に移動しますが、家財道具の権利は移動しません。それゆえ居住者がいた場合には、移住に伴い家財は持ち出されます。しかし強制競売物件ではすでに居住者と連絡がつかない状況にあり、家財やゴミを処分する場合には行政による強制執行の手続きが必要になります。
しかし居住者が死亡するなどして遺品として扱われる場合には、さらに処理は煩雑になります。仏壇や故人の遺品が遺された物件を取得してしまった場合、遺品類はまず遺産相続人の所有物となります。もし相続人が相続を放棄したとしても無主物にはならず、管財人の管理物として扱われることになります。したがって、改めて遺産相続人や管財人に所有権放棄と処分の代行に関して一筆書いてもらわなければ、安易に強制執行ともいきません。
ゴミ屋敷と瑕疵担保責任
遭遇しがちなケースに、いわゆる“ゴミ屋敷”を落札してしまうというものがあります。3点セットだけでは現況を確認することができず、購入してみれば大量のゴミが残されていたというパターンです。たとえ債務者と連絡がつく状態であっても、債務者に支払い能力がなければゴミの清掃費用を一時的にでも負担する必要が生じます。
また、清掃費用だけではなく、ゴミを筆頭とする管理状態の悪さは、カビやシロアリの発生を招いているかもしれません。その場合にも瑕疵担保責任は買受人側にあります。そうなれば、除去費用に加えて先述のリフォーム費用も上乗せされることになるでしょう。
こうした事態を回避するためには、入札前の情報収集が欠かせません。3点セットだけで得られる情報には限りがあると肝に命じましょう。入札前に物件の外観だけでも視察し、近隣住民との関係を調査するなどの対策を講じるのが理想的です。とはいっても、過剰な事前調査は現在の居住者との間にトラブルを招くこともあるため注意が必要です。
残された動産の処分についてのまとめ
競売物件の取引はあくまで不動産の権利だけを扱います。買受人は居住者との交渉および動産の適切な処分について一切の責任を負わなければなりません。費用を負担して強制執行を実施するのが通例ですが、その場合であっても適切な対応をしていなければ、動産の権利者から訴訟を起こされる危険性があります。
まとめ
一般的な不動産購入とは異なる競売物件について、よくある失敗パターンを通じてそのリスクの特徴を整理しました。住民の立ち退きに関わるトラブルや、瑕疵担保責任がなくリフォーム費用がかさんでしまうこと、さらに競売物件に残された動産の扱いなど、競売物件には特有のリスクがあります。安く物件を購入できる点では魅力的な競売物件ですが、それらのリスクを甘く見ていると、大きな失敗に陥ってしまうかもしれません。競売物件に興味を持った際には、このことを思い出して、慎重な態度を心がけましょう。
下記記事では、競売物件取得までの大まかな流れを丁寧に説明していますので、よろしければこちらもご参照ください。
参考記事:意外とリスクが大きい?競売物件のメリットとデメリットについて理解しよう
また、他の物件種別や種別だけではない失敗要因は存在します。下記の記事も合わせてご覧ください。
参考記事:【総まとめ】典型的な不動産投資の失敗パターン|回避法と4つの教訓
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