【 目次 】
2017年9月5日、新たな住宅セーフティネット法が10月25日より施行されることが閣議決定されました。住宅セーフティネット法とは、正式名称を「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」といい、低所得者や被災者、高齢者など、住宅確保に配慮を要する方に住宅を供給するための支援の指針を定めた法律です。
今回はこの住宅セーフティネット法の改正に焦点を当てて、改正の背景と概要、そして不動産投資への影響について解説します。
アパート経営について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
住宅セーフティネット法改正の背景
住宅セーフティネット法改正の背景には、空き家・空室の増大と住宅確保要配慮者の増加という二つの問題が存在します。
空き家の問題
現在日本では空き家・空室が増加傾向にあり、平成25年7月の段階で820万戸にも上ります。図1に見られるように、全国820万戸の空き家・空室等のうち、駅から1㎞圏内にあり、かつ耐震性が備わっている賃貸用の物件は、137万戸存在します。これでは住宅ストックが適切に活かされているとは言い難い状況です。
図1:空き家・空室の状況(空き家等820万戸)
住宅確保要配慮者の問題
住宅確保要配慮者は、「低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子どもを育成する家庭その他住宅の確保に特に配慮を要する者」と定義されており、その数は増加しています。彼らは孤独死や家賃滞納の可能性があるとの理由により、大家から入居を拒否されてしまうのです。
特に、単身高齢者世帯は、今後10年で100万人増加すると見られており、住宅確保要配慮者の増加は、喫緊の課題となっています。
このような問題を解決するため、政府は空き家の活用を通じて、住宅のセーフティネット機能を強化するという方針をとりました。
改正住宅セーフティネット法の概要
背景を理解したところで、住宅セーフティネット法の改正内容に踏み込みましょう。改正の主なポイントは、「物件の登録制度の創設」と「要配慮者の入居円滑化」の二点です。
登録制度の創設
住宅確保要配慮者の入居を拒まない住宅として、都道府県などに登録することができる制度が整えられました。登録は不動産の賃貸人が行い、届出先は都道府県か都道府県が定める登録機関と定められています。
- 登録の条件と入居者の限定
耐震性能があることや25㎡以上の居住面積など、国土交通省令の定める一定の基準を満たしている必要があります。
また、登録の際には、入居を受け入れる住宅確保要配慮者の範囲を定めることが認められています。例えば住宅確保要配慮者のうち、高齢者に限定する、もしくは障害者のなかで身体障害者のみに入居者を限定するといったことができます。
- 都道府県側の支援
都道府県は、住宅確保要配慮者の入居を拒まない住宅として登録された住宅の情報を公開すると共に、賃貸人に指導監督を行います。さらに、登録された住宅の改修費用に対する支援を行います。
支援は、住宅金融支援機構によって行われます。住宅金融支援機構は、住宅ローンを組む際に融資を行っている独立行政法人です。賃貸人は、登録された住宅を改良する際に、新たに住宅金融支援機構から必要な貸付を行うことが可能となりました。
住宅確保要配慮者の入居の円滑化
住宅確保要配慮者の入居を円滑にするため、以下のことが行われることになります。
住宅確保要配慮者居住支援法人による入居相談・援助
住宅確保要配慮者居住支援法人は、都道府県知事によって指定された一般社団法人、もしくは企業です。彼らは、住宅確保要配慮者に対し、入居や生活の向上に関する情報の提供や相談、援助を行うことが求められます。
家賃債務保証の円滑化
独立行政法人住宅金融支援機構は、新たに家賃債務保証事業者との間に家賃債務保証契約を締結することで、家賃債務保証に要した金額を一定程度まで保証することが可能となりました。
家賃債務保証事業者とは、登録された住宅への入居者の家賃債務保証を行う者です。また、家賃債務保証は、住宅確保要配慮者居住支援法人によっても実施されます。
家賃債務保証を活発化させることによって、住宅確保要配慮者の入居を促進させようという試みです。
生活保護受給者の住宅扶助費等について代理納付を推進
従来は、生活保護受給者が支給された住宅扶助費を生活費に使用してしまい、家賃滞納が起こって大家の入居拒否を促進してしまうという状況がありました。
しかし、創設された登録制度を利用し、賃貸人からの申し出と生活保護受給者の状況について事実確認を行うことによって、個別に代理納付を行うことが可能となりました。
代理納付とは、生活保護費のうち家賃部分の支給については、生活保護者を間に介在させることなく、直接家主に行うというものです。これによって、生活保護受給者の受け入れが促進されると見込まれています。
これらの方針に加えて、地域の実情に合わせた対応を行うため、都道府県及び市町村は住宅確保要配慮者向け賃貸住宅の供給促進計画を独自に作成できるようになりました。
都道府県や市町村によって細やかな対応を可能にする一方、地域ごとに住宅の登録基準が異なる可能性があるため、制度を利用する際には注意が必要となりました。
また、国と地方公共団体から、「登録住宅に対する改修費補助」と「低所得者の入居負担軽減する措置」をが取られることとなりました。
前者は、バリアフリー工事や耐震改修工事、用途変更工事等を対象に、改修にかかった費用の3分の1が最高200万円まで補償されます。
後者は、登録住宅に低所得層の住宅要配慮者を受け入れる場合、オーナーと家賃債務保証事業者に家賃と債務保証の補助を行うものです。補助の上限は、それぞれ4万円と6万円となっています。
ともに魅力的な支援措置ですが、入居者の収入と家賃水準に対して一定の要件が課せられる場合があるため、気をつけなければなりません。
政府は、これらの政策を通じて、2020年までに登録住宅を17万5,000戸まで増やすことを目指しています。
不動産投資に与える影響は?
それでは、今回の住宅セーフティネット法の改正によって、不動産投資はどのような影響を受けるのでしょうか?
ここでは、改正住宅セーフティネット法による影響と制度を利用する際の注意点について解説します。
改正住宅セーフティネット法の影響
空室の解消
改正住宅セーフティネット法の登録住宅制度を活用し、住宅確保要配慮者を積極的に受け入れることで、空き家・空室の解消を見込むことができます。
また、従来は、家賃滞納などのリスクがあった入居者も、国と地方公共団体からの家賃低廉化措置により、安心して受け入れることができます。
老朽化の修繕
老朽化を改修する際は多額の費用がかかりますが、政府や住宅金融支援機構からの支援を受けることによって、通常より修繕を行い易くなります。そのため、老朽化修繕の良い機会となるでしょう。
改正住宅セーフティネット法を利用する際の注意点
空室や老朽化の解消など賃貸経営に効果的な住宅セーフティネット制度ですが、利用するにあたっては注意点もあります。
最後に、住宅確保要配慮者向けの物件を所有する際の注意点について説明しておきます。
入居できる住宅確保要配慮者の範囲
住宅を登録する際、賃貸人は、住宅確保要配慮者の範囲を自由に選択できますが、例えば「70歳以上の高齢者の入居は認めない」など、法令の主旨に反するような制限を加えることができません。
また、改修費、家賃低廉化の支援措置を受ける際には、住宅要配慮者の入居を拒まないという登録住宅の制限よりも、さらに入居者が限定される場合があります。
例えば、家賃低廉化措置を受ければ、入居者は月収15.8万円以下の世帯のみが認められます。そのため、逆に一般の入居者を受け入れられなくなり、空室が発生してしまうことも起こり得ます。
家賃の制限
要配慮者の入居を拒まない住宅として登録する場合や改修費補助などを受ける場合、家賃に対して制限が加えられることがあります。登録住宅の家賃基準は、近隣住宅の家賃と同額レベル以下となっています。改修費補助・家賃低廉化措置を受ける場合には、公営住宅の家賃以下となります。
そのため、仮に空室の解消ができたとしても、収益がプラスになるような家賃収入が望めるのか計算する必要があります。また、地方公共団体ごとにこれらの基準は異なるので、確認が必要です。
家賃滞納のリスク
当然ながら、登録住宅として貸家を登録した場合、生活保護費受給者や低所得者などの層の入居が考えられるため、家賃滞納のリスクが高まります。同時に家賃債務保証や代理納付の制度を活用して、このリスクを適切に管理する必要があります。
不動産投資の8つのリスクとリスクヘッジについて詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
まとめ
10月25日から施行される改正住宅セーフティネット制度について、その概要や注意点を中心に解説しました。空室の解消や老朽化の修繕など不動産投資において、大きなメリットを持つ新たな住宅セーフティネット制度ですが、逆に空室が発生してしまうなどのデメリットも考えられます。
活用する際には、それらを考慮に入れることを忘れないようにしましょう。
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