【 目次 】
不動産投資の効果的な運用のために、減価償却はとても重要な意味を持ちます。減価償却とは会計上および税法上の概念で、時の経過等によって資産価値が減少する事実を一定の方法によって各年分の必要経費として配分していく手続です。
不動産投資においては、この減価償却の仕組みによって税金の還付を受けられる可能性もあります。今回は減価償却について学び、効果的な不動産投資に向けて活かしましょう。
なお、本記事では不動産投資における減価償却の役割を中心に解説していきますが、減価償却の基本について知りたい方は下記の関連記事をご確認ください。
関連記事:減価償却とは?対象となる固定資産や計算方法を初心者向けに解説
減価償却の考え方と仕組み
不動産投資に限らずどんな事業でも、益金(≒収益)から損金(≒費用)を差し引くことで所得を算出し、この所得にもとづいて課税額が決定されます。原則として、益金及び損金は課税期間内に生じた収入及び支出から構成されます。
ところが不動産投資の場合、大きな支出項目として物件の購入費があります。これは物件購入時に一括して発生しますが、その支出額を損金として全額計上すると、今後数十年にわたり生じる益金(家賃収入)と物件の購入費の対応が取れなくなります。
しかし、物件の購入費の動きをそのまま所得計算に反映するのではなく、物件の価値、つまり資産価値に注目するとどうでしょうか。建物等の減価償却資産は時の経過等によって劣化し、価値が目減りしていきます。
このように資産価値が減少する事実を、会計や税法では毎年の必要経費として計上することを求めています。
つまり、物件購入時点で購入費用すべてを経費計上すると益金と損金の対応関係が取れないため、一定の方法によって各年分の必要経費として配分していきます。これが「減価償却」という考え方です。
具体的には、減価償却資産(建物など)の構造や用途に応じて「耐用年数(償却率)」が定められています。そして減価償却資産の購入費用を、耐用年数に渡って配分する、つまり購入費用に償却率を乗じて減価償却費を算定します。
そのようにして計算された「減価償却費」が各年分の必要経費とみなされ、所得計算における損金(経費)の一部となるのです。
ただし、土地は時の経過等により劣化しないので、非減価償却資産に該当します。このため、減価償却を行いません。
不動産投資においては、必要経費に占める減価償却費の割合が大きくなりますので、その重要性は高まります。そのため、減価償却について正しく理解しなければ、所得を正しく計算することも、税額を算出することもできません。
今回は不動産投資における減価償却を丁寧に学んでいきましょう。
減価償却の計算方法って?
定額法と定率法
減価償却には、「定額法」と「定率法」という二つの計算方法があります。しかし不動産を対象とする場合、定率法を利用することができません。
平成28年3月31日までに取得された物件ならば、建物設備だけを取り出せば定率法を適用することもできますが、建物本体については定額法で計算するように定められています。
今回は定額法を取り上げて、その計算方法を確認していきます。手順を追って説明しますが、途中で二ヶ所、購入条件によって計算過程が変化する部分があります。
第一に、新築物件と中古物件とでは計算方法が異なる点があります。第二に、購入時期によって参照する表が異なる部分があります。それぞれ注意して読み進めてください。
土地の価格と建物の価格を分ける
減価償却は、劣化する減価償却資産のみに発生します。減価償却の計算を始めるにあたって、物件全体の購入金額から、劣化しない非減価償却資産の金額を差し引く必要があります。
不動産投資の場合、ここで差し引かれるのは土地の価格です。一般的には、売買契約書を確認すれば土地と建物の価格が明記されています。
もし土地と建物の価格が明記されていなければ、固定資産税評価額を使って計算することができます。市区町村の窓口で取得できる固定資産評価証明書などから、建物と土地の固定資産税評価額を確認してください。
その総額に対して建物の評価額が占める割合を計算します。
建物の固定資産税評価額 ÷ 建物と土地の固定資産税評価額の総額
このように求めた比率を、今度は実際の売買時の価格(土地と建物の総額)に掛け合わせることで、建物の購入費用を算出することができます。
建物の価格を建物本体と建物設備に分ける
土地と建物の価格を分けたら、次に建物本体と建物設備の購入価格を区別します。今回は建物本体の減価償却を取り扱いますが、建物設備にも減価償却は発生します。
その償却額は建物本体に比べれば少額ですが、設備の種類に応じて耐用年数が個別に定められており、計算はやや複雑になります。
以下の説明の中で参照することになる国税庁の資料「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」内に、設備それぞれの耐用年数が定められています。
建物本体の計算方法と考え方は変わりませんので、以下の解説に沿って計算すれば同様に求めることができます。
耐用年数を確認する
次にその物件の耐用年数を知る必要があります。耐用年数は建物の構造によって以下のように定められています。ここに示したもの以外の構造を持つ物件は稀ですが、その場合にも国税庁の資料「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」から耐用年数を確認できます。
鉄筋コンクリート(RC)造の住宅 | 47年 |
重量鉄筋(骨格材の肉厚が4ミリメートルを超える)の住宅 | 34年 |
木造の住宅 | 22年 |
物件が新築だった場合、これらの年数がそのまま減価償却費の計算に用いられます。
残存耐用年数の算出(中古物件の場合)
中古物件の場合には、確認した耐用年数と取引時の経過年数から、残存耐用年数を新たに算出する必要があります。その計算式は、「簡便法」と呼ばれる以下のようなものです。なお、この簡便法は、中古物件の価格が同等物件の新築価格の50%を超えていない場合にのみ適用できます。
(A)築年数が耐用年数を超えている場合
残存耐用年数 = 耐用年数 × 0.2
(B)築年数が耐用年数を超えていない場合
残存耐用年数 = 耐用年数 — (経過年数 × 0.8)
たとえば、鉄筋コンクリートのマンションを竣工から13年後に購入したとしましょう。本来の耐用年数は47年であることを踏まえ、上記(B)の計算式で残存耐用年数を求めることになります。式に当てはめると次のようになります。
残存耐用年数 = 47年 — (13年 × 0.8)
= 47年 — 10.4年
= 36.6年
残存耐用年数の最終的な数値は、端数切り捨てで求めると定められているため、この例での残存耐用年数は36年となります。
定額法による計算(平成19年4月1日以降に購入した場合)
定額法とは、購入額を耐用年数で均等に配分する方法です。毎年同じ額の減価償却が発生するため、計算方法も比較的理解しやすい方法といえます。
この方法を用いるためには、はじめに国税庁の発行する「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」に付録されている『別表第八 平成十九年四月一日以後に取得をされた減価償却資産の定額法の償却率表』を確認しましょう。政府の法令検索サイト「e-Gov」から参照できます。
リンク:『減価償却資産の耐用年数等に関する省令』(e-Gov)
ここでは一例として、新築の建物価格が2,000万円の鉄筋コンクリート造のマンションを購入していたとします。この場合、耐用年数は47年ですから、表中の四七を確認します。すると、対応する減価償却率が「○・○二二」となっています。この数値「0.022」を建物の購入費用に掛け合わせることで、一年毎の減価償却額が算出できます。
減価償却 = 2,000万円 × 減価償却率0.022 = 44万円
新築の場合、これだけで減価償却費の計算は完了します。この例の場合、毎年44万円を減価償却費として経費計上します。ただし、年の途中で取得した場合には、益金と対応させるため、物件を取得した月から費用計上を行うよう月割計算を実施します。
旧定額法による計算(平成19年3月31日以前に購入した場合)
定額法の考え方に変化はありませんが、参照する表が異なります。同じ「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」中の『別表第七 平成十九年三月三十一日以前に取得をされた減価償却資産の償却率表』を参照して定額法の償却率を適用します。その他の手順に変化はありません。
減価償却に関する注意点は?
減価償却費は各年分の必要経費とみなされ、所得計算における損金(経費)の一部となりますので、減価償却費が大きければ課税所得金額を押し下げます。その一方で、減価償却費は、物件を手放す際の税額を増やす効果もあります。
なぜなら減価償却によって建物の帳簿価額(簿価)が目減りしているため、売却益が大きくなり、これに掛かる譲渡所得税が膨らんでしまうのです。
どのような原理なのか、例を使って確認してみましょう。
建物本体の価格が5,000万円の鉄筋コンクリート造の物件を購入したとしましょう。毎年の減価償却費は次のように求められます。
減価償却 = 建物本体5,000万円 × 0.022 = 110万円
その一方で、毎年の減価償却によって、建物の簿価、つまり帳簿上の価額が目減りします。たとえば三年後にこの物件を同額の5,000万円で手放した場合の売却益を計算してみましょう。
売却益 = 売却額5,000万円 — (購入価格5,000万円 — 減価償却110万円 × 3年分) = 330万円
額面だけを見れば5,000万円で購入した物件を5,000万円で手放しているため、利益はないように思われます。しかし減価償却により簿価が低下しているため、税法上は、売却益として330万円が発生したものとして処理されます。
5年以内の短期譲渡所得に対する税率は39.63%(所得税30.63% 住民税 9%)と定められているため、この場合には次の金額の税金が発生します。
譲渡所得税 = 売却益330万円 × 税率39.63% ≒ 131万円
5年以上所有して売却する長期譲渡所得に対する課税率は20.315%(内訳:所得税15.315% 住民税 5%)と下がりますが、減価償却もそれだけ進行しています。
同様に建物本体が5,000万円の物件を12年後に手放した例を考えてみましょう。このとき売値は4,000万円だったとします。
売却益 = 売却額4,000万円 — (購入価格5,000万円 — 減価償却110万円 × 12年分) = 320万円
譲渡所得税 = 売却益320万円 × 税率20.315% ≒ 65万円
これも額面だけを見れば、5,000万円で購入した物件を4,000万円で手放しているため利益は出ていないように思われます。しかし減価償却による簿価の目減りによって、税法上は売却益が出たものとして課税が行われます。
物件を手放す際には、減価償却のこの性質にも注意しなければなりません。
なお、上記とは逆のケースとして、もし実際の売却額が帳簿上の価額(簿価)を下回ったならば、税法上の譲渡損失が生じたことになります。譲渡所得は「分離課税所得」です。
これはつまり、譲渡損失は、事業所得や給与所得などの「総合課税所得」との間で「損益通算」ができないということを意味しています。損益通算については、以下の記事で解説していますのでぜひご覧ください。
関連記事:【税理士監修】不動産投資の節税ロジック!効果が高い物件と節税すべき人
まとめ
減価償却費は物件の購入価格から算出される、不動産投資の経費のひとつです。土地以外の劣化する資産に対して発生し、その大きさは建物の構造により定められた耐用年数から計算されました。
減価償却は不動産投資の経費の大きな部分を占めるため重要な要素であり、不動産所得金額を計算するために不可欠であることはもとより、資産売却の際にも重要な観点となります。減価償却について理解を深めておけば、より効果的な不動産投資を計画することができます。
関連記事:減価償却とは?対象となる固定資産や計算方法を初心者向けに解説
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