【 目次 】
近いうちに、120年ぶりに民法の大改正があります。
施行は、2019年秋頃から2020年が見込まれています。
民法大改正というように、膨大な量の改正なので、全てを確認する時間を取るのは難しいでしょう。
そのため、今回は不動産投資に関係する重要なポイントをピックアップして見ていきます。
現在、不動産投資をしている人も、これからしようと考えている人も必見です。
不動産等の賃料の連帯保証について
まずは、不動産等の賃料の連帯保証に関する民法改正から見ていきたいと思います。
連帯保証に関するポイントは、個人保証の制限と保証人への情報提供の義務の二点にあります。
個人保証の制限
一つ目の個人保証の制限とは、個人が連帯保証人になるためには契約書の中で極度額を明記しなければいけないというものです。
極度額とは、連帯保証人が責任を負担する最大額のことです。
極度額が示されていない場合は、保証契約自体が無効になりますので注意しましょう。
これは、たとえば、何百万円と表記されたり、家賃何ヶ月分と表記されたりします。
従来は、賃借人と連帯保証人の責任は同等であるという考えのもとで、極度額を設けていませんでした。
しかし、個人がリスクを十分に認識しない中で連帯保証人になり破産に追い込まれるという事例が多発したため、連帯保証人に対する保護の重要性が高まったことが今回の改正につながりました。
この極度額の明記が不動産投資に与える影響として、個人の連帯保証人が見つかりにくくなることが考えられます。
極度額を決める時に連帯保証人としての負担の大きさを認識することになり、保証人になることをためらいやすくなるからです。
連帯保証人は、不動産投資の際のローン、不動産賃貸借契約にかかわってきます。
保証会社の利用を検討する必要もありそうです。
保証人への情報提供の義務
二つ目の保証人への情報提供の義務とは、保証契約締結時と保証人からの請求があったときなどは保証人に対して情報提供を行わなくてはいけないというものです。
保証契約締結時には、個人の保証人に対して、財産や収支、債務の状況、担保として提供できるものの有無などを情報提供しなくてはいけません。
この際に虚偽の申告をした場合は、個人の保証人は保証契約を取り消すことができます。
保証人からの請求があった時も同様に情報提供しなくてはいけません。
情報提供しなかった場合、明確な罰則はありませんが、損害賠償が求められることがあります。
また、賃借料の代金未払いなどの期限の利益損失の際は、二か月以内に連帯保証人に通知することも義務付けられるようになります。
期限内に通知しなかった場合は、期限の利益損失時点から通知を実施した時までの遅延損害金を保証人に対して請求することができません。
この情報提供の義務が不動産投資に与える良い影響として、連帯保証人に対しての保護が充実したため、連帯保証人とのトラブルを避けることができ、より円滑な連帯保証人との関係性が整備されることがあげられます。
原状回復義務と敷金
今回の民法改正で、トラブルの原因となりやすい原状回復義務と敷金に関しての法律が整備されることとなります。
敷金に関しての法律
まず、敷金の定義は、
“賃借人の賃貸人に対する債務を担保することを目的に賃借人が賃貸人に交付する金銭である”
という条文が新設されます。
これによって、今まで曖昧になっていた敷金の定義が決定します。
また、敷金は、賃借人の債務の額を控除した額を賃借人に全額返金する義務があると明文化されます。
返還義務がある時期として、賃貸借が終了し、賃貸物の返還を受けたときと、賃借人が賃借権を譲り渡したときの2つが定められています。
以上のことをわかりやすくまとめると、賃借人が賃貸物を返還、または権利を譲渡した際に、敷金から家賃の未払い分や故意・過失の損傷の修繕費などを除いた全額を返金する義務があると定められることになるといえます。
不動産投資への影響として、敷引きという習慣の下、敷金の一部を返金していなかった賃貸人は、敷金を返金できるような体制の整備が必要になるということが挙げられます。
これには、礼金を活用しその分のお金を徴収するなどの対策が有効です。
原状回復義務
原状回復義務とは、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷は、賃借人がその損傷を原状回復させる義務があるというものです。
このとき重要となってくるのが、通常の使用及び運用によって生じた賃借物の損耗や、賃借物の経年変化に関しては、賃借人は回復の義務を負わないということです。
まとめると、原状回復とは賃借人の非がある損傷の回復であり、賃借物を借りた当時の状態に戻すことではないことになります。
注意しましょう。
従来は、賃借物の損耗などの修繕費が、敷金などから払われることがあったのですが、これは認められなくなります。そのため、敷金はほとんど全額返還されやすくなったといえます。
ちまたでは、敷金の全額返還といわれていますが、このように法律が整備されたことによって敷金が以前より全額返還されやすくなったということなので注意するようにしましょう。
また、原状回復に関連して、賃借人の収去義務についても改めて定められました。
収去とは、賃借人が、賃借物を借りた後に、賃借物の壁や天井などに付属させたものを取り除くことをいいます。新しく定められた法律では、使用賃借が終了した際に賃借物に付属させたものを収去させる義務を負うとなっています。
現行法では、収去させる権利にとどまっていたのですが、今回義務と明文化されることになりました。
しかし、収去の義務の例外として、賃借物と分離できないものや分離するために費用がかかるものが認められています。
不動産投資への影響として、賃貸人は不動産の経年変化や、通常使用による摩耗などの修繕費を払う必要が出てきたため、その費用を考慮した不動産投資の収支管理をすることが求められるということがあげられます。
以上の二つの法律は、現在まで曖昧であった事項を明確化したため、不動産投資のコスト面でのメリットは少ないですが、トラブル回避という点でのメリットは多いといえるでしょう。
賃料の減額義務と解約権利
賃貸物が一部使用不能になったときの民法も一部改正されることになりました。
賃貸人となるにあたっては、注意が必要です。
賃料の減額義務
まずは、賃料の減額義務について見ていきましょう。
賃貸物の一部が滅失その他の事由によって使用できなくなった等の場合は、賃借人の責めに帰する原因でなければ、賃貸人は賃料を減額しなくてはいけないというのが減額義務です。
現行法では、賃借人は減額の請求ができるとなっていますが、改正により、請求の有無にかかわらず賃貸人は賃料を減額しなくてはいけないので注意しましょう。
具体例としては、エアコンや水道設備などの故障の際に部屋の中で通常の使用ができなくなるため、賃料を減額するということがあります。
減額する金額は、使用できなくなった部分の割合と定義されています。
しかし、割合の計算方法など曖昧な点があるので、各自の整備が必要です。
アパートやマンションを前提とした不動産投資への影響は少ないと推測されますが、賃料減額義務の認識と賃料減額のガイドラインを賃借人と調整するということが重要となるでしょう。
割合の計算などが難しくなるため、使用できなくなった物品別に考えていく方法も考えられます。
解約権利
次に、解約権利について見ていきます。
先ほどと同様に、賃貸物の一部が滅失その他の事由によって使用できなくなった場合で、残存する部分のみでは賃借人が賃借した目的を達成することができなければ、賃借人は契約を解除できるというものです。
これは、現行法と変わらないので再確認しましょう。
しかし、賃借物全体が使用できなくなった場合についての法律が今回追加されました。
一部使用不可の場合と異なるので注意しましょう。
新設された法律の内容は、賃借物の全部が滅失その他の事由によって使用することができなくなった場合、行っていた賃貸借はその時点で終了するというものです。
つまり、一部使用ができない場合は、賃借人に契約解除の選択ができますが、全体が使用不可となった場合はその時点で契約が解除されることになります。
また、契約解除の関連で、転貸についても新設された法律があるので確認していきます。
転貸とは、賃借人が借りている賃借物を第三者に又貸しすることをいいます。
又貸しされた人は転借人といいます。
新設された民法では、賃借人が適法に賃借物を転貸した場合は、賃貸人が賃借人との合意によって契約を解除しても、転貸された転借人はその影響をうけないと定められました。
しかし、その契約解除の時に賃貸人が、賃借人の債務不履行による解除権を持っていた場合は、転借人は退去しなければならないとなっています。
この改正は、賃貸人が転借人を退去させることができる権利を持つことが明文化されるようになったことがポイントといえます。
転貸による契約違反など、トラブルは絶えません。
賃貸人が転借人に対して契約解除する権利が明文化されたことは、転貸問題を扱う上で大きいでしょう。
賃借人の修繕について
続いては、今回新設されることとなる賃借人の修繕について考えていきましょう。
以前から賃貸人の修繕に関しては条文に書かれていました。
具体的には、賃貸人は、賃貸物の使用に必要な修繕をする義務を負うということが決められています。
今回の改正で、賃借人の責めに帰すべき事由によって修繕が必要となった時を除くという一文が加えられることとなったので確認が必要です。
たとえば、知らない子供がガラスを割るという場合は、賃貸人が修繕しなくてはいけませんが、賃借人の子供がガラスを割るという場合には賃借人が修繕しなくてはいけません。
本題の賃借人の修繕ですが、今回新設されることになります。
具体的には、賃貸物の修繕が必要である場合において、以下の場合のとき、賃借人は修繕することができるというものです。
賃借人が賃貸人に修繕が必要であることを通知し、賃貸人がそのことを知ったにもかかわらず、相当な期間内に必要な修繕をしないときと急迫の事情があるときの二つの場合があてはまります。
この際にかかった費用に関しては、必要費であれば賃借人は、賃貸人に請求することができます。
このことが不動産投資に与える影響として、賃貸人と賃借人のトラブルの増加が考えられます。
今回新設された民法は、相当な期間という文言など曖昧な点があります。
また、賃借人が必要以上の修繕を行ってしまうということも考えられるでしょう。
そのため、対策として、賃借人との合意のもとで相当な期間の定義付けを契約書に盛り込むといったことが有効となってきます。
その他、賃借人と賃貸人が連絡を取れる環境の整備も大切です。
投資物件を修繕するタイミングや目安のコストについて知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
妨害排除請求権について
最後に妨害排除請求権についてみていきたいと思います。
妨害排除請求権は今回新しく設けられることになります。
わかりやすくいうと、賃借人でも不動産を第三者に占拠されるなど妨害されたときは、それを排除する請求権を持つというものです。
具体的には、賃借人が借りる不動産の占有を第三者が妨害しているときに第三者に妨害の停止の請求ができるということと、賃借人が借りる不動産を第三者が占拠しているときに第三者に返還の請求ができるということの二つのことが明文化されました。
最高裁で、これらの請求権は認められたことはあったものの、明文化された法律はなかったため、不動産関連の法律の整備が整ってきたといえるでしょう。
不動産投資への影響としては、これまで裁判などトラブルになっていた第三者の妨害問題がより解決しやすくなったので、円滑な運営しやすくなったといえることがあります。
今回の改正により賃借人が解決できるようになったので、このことを賃借人にも周知するようにするとよりよいでしょう。
まとめ
今回は、不動産投資に関係する民法の改正について見ていきました。
以前よりも、法整備によって賃借者の権利が大幅に守られるようになりました。
これは言い換えると、これまで以上に賃貸人が賃借人に対して歩みよらなくてはいけないということです。
不動産投資では、賃貸人と賃借人の関係が肝となりますので、改正事項をしっかり頭にいれるようにしてください。
賃貸管理を管理会社に委託する場合にも、任せきりで安心せずに契約の内容をしっかりと確認し、トラブルが起こることのないように注意することが大事です。
民法改正によって注意しなければならないことは増えますが、実際に不動産運用自体に大きな影響を及ぼすのは民法ではなく税法の改正であると考えられます。不動産投資に関する税制や最近の改正についてはこちらの記事でご確認ください。
不動産投資における税金について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
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